極上悪魔な弁護士が溺甘パパになりました
 だが、慎太郎は致命的なほど営業能力がなかった。独立して事務所を開設した途端に落ちぶれ出し、四年前にとうとう妻子に逃げられてしまった。現在の年収はかつての三分の一だ。

 繭のほうはストレートの髪を肩の辺りで切りそろえたボブヘアで、メイクはごくナチュラル。目立つところのない平凡な二十八歳。繭も数年前までは大きなローファームでパラリーガルをしていたのだが事情があって退職した。ハローワークで紹介された慎太郎の事務所に来てもうすぐ丸一年になる。大きな夢も野望もなく、平和な日々が続くことだけを願っている小市民だ。枯れた性格の者同士、慎太郎とは結構ウマが合う。

「そうだなぁ。国選の仕事でも回してもらおうかね」

 慎太郎は重い腰を持ちあげて、ぐぐっと背伸びをする。その慎太郎の足元にメロはまとわりついてニャアと愛らしい声で鳴く。慎太郎の不在時には繭のところにも寄ってくるのだが、慎太郎がいるときは彼のそばを決して離れようとしない。『本命は慎太郎』の姿勢をメロは徹底して貫いていた。
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