極上悪魔な弁護士が溺甘パパになりました
「十五時に川口(かわぐち)さんがいらっしゃるので、それまでには戻ってきてくださいね」

 本日唯一の依頼人は、不倫からの離婚問題で修羅場のただなかにいる男性だ。前回は無料相談だったが、今回は正式な依頼なので大事にしなくてはならない。

「了解~」

 気の抜けた調子で言って、慎太郎は背中で手を振り事務所を出ていく。

 留守番の繭は事務仕事を片づけて、散らかり放題の慎太郎のデスクを整理し、メロにおやつをあげると……もうすることがなくなってしまった。かつていたローファームでは、ひっきりなしに鳴り響く電話の対応だけであっという間に時間が過ぎていったものだが、堂上法律事務所の電話はうんともすんとも言わないのだ。

「今月の家賃と私のお給料、大丈夫かな」

 こうも依頼がないとさすがに不安になる。

(ご近所に無料相談のチラシでも配って回ろうか)

 こういう小さな事務所では地道な営業活動が意外と大事なのだ。繭がそんなことを考えていると、ドアノッカーがからんと鳴って細く扉が開いた。
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