極上悪魔な弁護士が溺甘パパになりました
「いやぁ、ありがたいです。実は昼を食べ損ねてお腹が空いてしまっていて」
「そうだったんですね。おかわりもあるので、おっしゃってくださいね」

 繭も慎太郎も無類の甘いもの好きなので、おやつのストックは豊富にある。川口はクッキーをかじりながら深いため息をついた。年は三十代後半くらいだろうか。気が弱くて、お人好し、繭は彼にそんな印象を抱いた。

(優しくて、いい旦那さまそうなのにな……)

 彼の悩みは妻の不倫だ。なんと川口との結婚前から続いていた関係で、今になって不倫相手と再婚したいから離婚してくれと言い出したのだそうだ。離婚をさけ再構築をしたい川口と妻は平行線で……というのがだいたいのストーリーだ。こういう仕事をしているとよく聞く話ではあるのだが、本人からしたらとんでもない悲劇だろう。彼の心情を思うと、かける言葉も見つからない。

「妹尾さんでしたっけ?」

 川口は繭を見て、ぼそりとつぶやく。

「はい。パラリーガルをしている妹尾です」

 少し前まではあまり知られていない職種だったが、ドラマや漫画の影響なのか最近はすんなり『あぁ』と言ってもらえることが多くなった。
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