極上悪魔な弁護士が溺甘パパになりました
 事務所の扉の前で繭は川口を見送る。
「では、また来週にお待ちしてますね」
「はい、本当にありがとうございました」

 川口は深々とお辞儀をしてから頭をあげたが、なぜか立ち去ろうとしない。繭はいぶかしく思い小首をかしげて彼を見る。

「あの、なにか?」

 すると意を決したように彼が大きな声を出した。

「妹尾さんは甘いものお好きでなんすよね?」
「は、はぁ」

 さきほど彼にクッキーを出したとき、自分も慎太郎も甘いものに目がないのだという話はたしかにした。

「うちの近くにおいしいロールケーキの店があるんです。次はそれを土産に持ってきます」
「いえ、そういうお気遣いは無用ですから」

 慎太郎は依頼人からの贈り物は受け取らない主義だと繭は説明したが、その言葉がかえってよくなかったのかもしれない。

「大丈夫です。先生にではなく妹尾さんへのお土産なので!」

 自信満々にそう告げて川口は走り去っていく。繭はどこかウキウキしたような彼の後ろ姿に一抹の不安を覚えた。

(いや、まぁ……自意識過剰よね。うん、きっと私の勘違い!)

 自分にそう言い聞かせて、繭は事務所に戻る。慎太郎にお茶のお代わりを持っていきながら探りをいれた。

「この案件、どう進めるんですか?」
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