極上悪魔な弁護士が溺甘パパになりました
(な……なにを寝ぼけたことを)

 人のよさそうな川口の顔を思い浮かべつつ、繭は歯ぎしりする。

「その反省の気持ちを伝えるのが慰謝料じゃないですか!」

 そう言って慎太郎に詰め寄るが、彼はいつもどおり飄々とした態度を崩さない。

「まぁね、法律家の立場から言えばそうなんだけど。でも、大事なのは依頼人の気持ちだからさ」
「依頼人に寄り添いすぎて、家賃を払えなくなったらどうするんです?」

 繭は胸の前で腕を組んで慎太郎の前に仁王立ちする。きっと彼をにらみつけるが、慎太郎はへらりと笑うだけだ。

「まぁまぁ。人生はケセラセラだから」
「タロ先生は都合が悪くなるといつもそれなんだから」

 あきれを通りこして、なんだか笑えてくる。

「あぁ、いいね。繭ちゃんにはやっぱり笑顔が一番だよ」

 慎太郎は邪気のない笑顔を見せると、ずずっとお茶をすすった。メロも同意するように「ンニヤァ」と鳴くと、慎太郎の膝のうえでごろりとお腹を見せた。繭はメロのこともひとにらみする。

「あんたも、いつもタロ先生の味方ばっかりして!」

 メロはそんな繭の言葉は聞こえないふりで優雅に昼寝を始めた。飼い主に似たのか、猫だからなのか、メロはいつだってマイペースだ。

(もういいや。どうせ怒るだけ無駄なんだから)
< 25 / 124 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop