極上悪魔な弁護士が溺甘パパになりました
 ところが繭の言葉のなにが気に入らなかったのか、旬太はより激しく暴れて大きな声で騒ぎ出す。身体をのけ反らせすぎて、抱っこ紐からすべり落ちそうになっている彼を繭は必死に支える。旬太の身体で足元がよく見えないのに、一刻も早くビルから出ようと急ぎ足になったのがまずかった。

 次の瞬間、繭のお尻がふわりと浮いた。足をすべらせたのだと気がついた繭は旬太だけは守ろうと、彼をかばうように背中を丸める。

「あぶないっ」

 誰かの叫び声とドスンという衝撃音が同時に聞こえた。繭は固くつむった目をおそるおそる開いて状況把握に努める。繭の胸のなかに旬太はしっかりとおさまっていた。彼が投げ出されていなかったことに繭はほっと安堵する。自分の身体もたいして痛くはない。

(私って、意外と運動神経よかったの?)

 しっかり数段分は落ちたような感覚があったから、受け身がとてもうまかったとしか思えない。

「無事ならさっさとおりてくれ。重い」

 ふいに耳元で声がして、繭は「ぎゃっ」とかわいげのない叫び声をあげる。痛みを感じなかったのは、今、繭の下敷きになっているこの男性が助けてくれたからのようだ。
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