極上悪魔な弁護士が溺甘パパになりました
 ひと月ほど前のことだ。ゼミの飲み会の帰り、ひどく酔っぱらっていた卓也に強引にホテルに連れ込まれそうになった。卓也は親友の恋人だし、そうでなくても彼に恋愛感情などなかった。繭は断固拒否し、彼を振り切って帰宅した。やましいことはなにもなかったのだ。ところが、たまたまその様子を見ていた同じゼミのひとりがわざわざ写真つきでありさに報告してしまった。

『繭に誘われたんだよ。あいつああ見えて、結構遊んでるんだな。ありさも同類に思われたくなかったら、友達やめたほうがいいよ』

 苦しまぎれについた卓也の嘘をありさはあっさりと信じ、繭の悪いうわさは学部中に広がった。繭は親友と楽しかった大学生活を同時に失ってしまったのだ。

***

 美智子は顔をしかめて、「うわぁ」と漏らす。

「なるほどね、そりゃ悲惨だわ。でも、それと大手の内定を蹴ったのはどういう因果関係なの?」
「不運なことにその男と私、内定先が同じだったんです」

 就職予定だった証券会社は採用数も多く、同じ明星(めいせい)大学法学部から繭と卓也ともうひとり別の男子学生に内定が出ていた。ただ、入社後の配属先は全国に散らばるし、繭と卓也が同じ支店に配属される可能性はかなり低い。気分はよくないが、繭も内定辞退までは考えていなかった。

 ところが、内定者懇親会の場で卓也ともうひとりの男子学生が例の話をぶちまけてしまったのだ。繭は職場の同期となる予定の数十名からも『親友の彼氏を寝取ろうとした女』のレッテルを貼られてしまったのだ。
< 36 / 124 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop