極上悪魔な弁護士が溺甘パパになりました
 さっきは思いがけない再会に動揺し、ろくに礼も言えなかったが……あのまま階段から転げ落ちていたら旬太に大怪我をさせたかもしれない。旬太の無事は樹のおかげだ。樹は軽く目を細めて抱っこ紐のなかで眠る旬太を見る。

「無事でよかったな。抱っこ紐装着時の事故は案外多いし気をつけろよ。よほどのケースでなけりゃメーカー側の賠償は期待できないし」

 最後のひと言は、すぐに訴訟を想定してしまう職業病といったところだろう。樹はカーナビを操作しながら繭に自宅の住所を確認する。
 入力が終わると、車は静かに走り出した。威圧感たっぷりの霞が関のビル群を眺めている繭に樹が言う。

「その子はあんたの?」
「えっ……は、はい」

 そう言ってしまってから、答えを誤ったことに繭は気がつく。

(しまった。お姉ちゃんの子を預かっているとでも言っておけばよかった)

 実際に繭には二つ年上の姉がいるが、彼女は仕事一筋のキャリアウーマンで結婚の予定はない。でも、そんな事情を樹は知らないし問題なく嘘をつけたはずなのに。機転のきかない自分を繭は責めた。

(いや、でも……自分の子どもかもなんて高坂先生が疑うはずはない。きっと大丈夫よ)
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