極上悪魔な弁護士が溺甘パパになりました
 この家は亡くなった祖父から譲り受けたもので、住みはじめてもう四年になる。繭の両親は利便性を重視した駅近のマンションを購入していたし、キャリアウーマンの姉は〝通勤に十五分以内〟の条件を譲る気はない。それで、繭に話が回ってきたのだった。
 正直なところ、この家があるから繭はシングルマザーになる決意ができた。税金等の負担はあるものの、住む場所が確保されている安心感はやはり大きい。

 樹は繭のトートバッグを持って運転席の扉を開けた。わざわざ見送りに外に出ようとしてくれているのだろう。繭は慌ててそれを制した。

「ここで大丈夫です! 高坂先生は足を怪我されていますし」

 今さらながら彼に申し訳ない気持ちになって、繭は続ける。

「病院行ってくださいね。もちろん費用はお支払いしますから」

 樹はふっと頬を緩めて繭をじっと見つめる。それだけで繭の心臓は小さく跳ねた。

(うぅ、この眼差しは反則だよ)

 だが、続く彼の台詞はさらに破壊力抜群だった。

「それは、また身体で払ってくれるって意味か?」

 かあっと繭の頬が赤く染まる。旬太の前でなんてことを言うのだと抗議の意をこめて、樹を軽くにらむ。

「ち、違います! 堂上法律事務所にお電話いただけたら、きちんと振込で対応しますかから」

 もう会うつもりはないと、自分にも彼にも言い聞かせるように繭は主張する。
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