極上悪魔な弁護士が溺甘パパになりました
 それを聞いた樹は驚いたように目を見開いた。川口が繭のことを知っていたのが意外だったようだ。樹は彼を通りすがりの痴漢かなにかだと思ったのかもしれない。
 だが、すぐに冷静になって、樹は川口に答える。

「お前みたいな不審人物にプライベートを正直に話すはずないだろ」

 呆気に取られている川口に追い打ちをかけるように樹は続ける。

「いつまでもうちの周りをウロチョロしてると警察呼ぶぞ」

 樹の剣幕に押され川口は数歩後ずさった、かと思うとくるりと背を向けて脱兎のごとく逃げていく。
 繭の全身からどっと力が抜け、膝がかくんと崩れ落ちる。へたり込みそうになった繭の身体を支えながら、樹は優しい声を出す。

「大丈夫か?」
「えっと……」

 大丈夫ですと答えるつもりだったのに、安心したせいかぽろりと本音が飛び出してしまう。

「ものすごく怖かったです」

 まだ震えている繭の背中に樹は手を伸ばし、旬太ごとそっと抱き締める。

(あったかい。高坂先生の体温はどうしてこんなに心地いいんだろう)

 
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