極上悪魔な弁護士が溺甘パパになりました
「って、すみません。旬太のためのお出かけなのに、私まではしゃいじゃって」

 樹はこらえきれないといった様子で笑い声をあげる。

「はは。いや、旬太の喜ぶ顔も見たいけど、同じくらい繭にも楽しんでほしいよ」

 優しい笑顔に繭の顔はますます赤くなる。

 休日なこともあり、家族連れやカップルで水族館はかなり混雑していた。樹ははぐれないようにと旬太の手をにぎる。

「まーまっ」

 すると、旬太が空いたほうの手を繭に向かって伸ばす。繭がその手を取ると、旬太はうれしそうににこりとほほ笑む。

「かわいいな」

 樹の言葉に繭は大きくうなずいた。旬太を真ん中に、三人で手をつないで歩く。前方のガラスに映る自分たちの姿を繭は不思議な気持ちで見つめていた。

(変なの。幸せそうな家族に見える。私たちは違うのに……)

 周囲の家族と同じように見えれば見えるほど、繭の胸はぎゅっと引き裂かれる。樹にも旬太にも嘘をついている。その事実が重い。
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