極上悪魔な弁護士が溺甘パパになりました
初めて彼女に触れたのは、二年前。自身の送別会が開かれるホテルに向かう道すがら、春の訪れを告げる沈丁花がかぐわしい香りを振りまいていたことをよく覚えている。
『人助けは仕事。無報酬でやるもんじゃない』
そんな人でなしなモットーを平然と口にしていた自分がなぜあの夜、繭に構おうとしたのか……。
***
露骨に繭を下に見ている男のにやけ顔に心底腹が立った。ミリガン&ジェイのパラリーガルはみな優秀。だからこそ、派遣社員がたった二年で法務事務分野のパラリーガルとなるには、相当の苦労があったはずだ。繭が積み重ねてきた努力を樹は知っていた。朝は誰よりも早く出勤し、弁護士である自分と同じくらい夜遅くまで事務所に残っている姿もよく見かけた。
男に見せつけるかのように彼女にキスをしたのは、ほんのいたずら心からだ。だが、複雑なパズルの最後のピースがようやくはまったような心地よい快感に樹は驚き、溺れた。初めて経験する高揚感と、ずっと昔から慣れ親しんでいるような安心感。相反するはずのふたつの感情が、繭とのキスにはなんの矛盾もなく共存する。相性がいい、それだけでは説明のできないなにかを樹はたしかに感じていた。
『人助けは仕事。無報酬でやるもんじゃない』
そんな人でなしなモットーを平然と口にしていた自分がなぜあの夜、繭に構おうとしたのか……。
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露骨に繭を下に見ている男のにやけ顔に心底腹が立った。ミリガン&ジェイのパラリーガルはみな優秀。だからこそ、派遣社員がたった二年で法務事務分野のパラリーガルとなるには、相当の苦労があったはずだ。繭が積み重ねてきた努力を樹は知っていた。朝は誰よりも早く出勤し、弁護士である自分と同じくらい夜遅くまで事務所に残っている姿もよく見かけた。
男に見せつけるかのように彼女にキスをしたのは、ほんのいたずら心からだ。だが、複雑なパズルの最後のピースがようやくはまったような心地よい快感に樹は驚き、溺れた。初めて経験する高揚感と、ずっと昔から慣れ親しんでいるような安心感。相反するはずのふたつの感情が、繭とのキスにはなんの矛盾もなく共存する。相性がいい、それだけでは説明のできないなにかを樹はたしかに感じていた。