極上悪魔な弁護士が溺甘パパになりました
 四十万のスーツ、たしかに高価な品だが樹にとっては頓着するほどのものではない。相手が繭でなかったら、『気にするな』のひと言で済ませただろう。

 身体で払え、この最低な発言の真意は……ただ、繭の気を引きたかっただけだ。もう少し彼女と話をしたい、同じ時間を共有したい。そんなふうに思ったのだ。それは恋愛感情なのかと問われれば、答えに窮するが、こんなにも強く心を惹かれたのは繭が初めてだった。

 『かっこいい』と口では樹を褒めるくせにどこか冷めたような繭の態度は、樹の狩猟本能をこれでもかとかき立てる。脳を直接くすぐる甘い喘ぎ声に柔らかな素肌からしたたり落ちる熱い蜜。繭のすべてが樹の嗜虐心と独占欲を煽り、昂らせていった。

 ベッドに腰かけた樹は、ぐったりと気を失うように眠り込んでしまった彼女の横顔をじっと見つめる。汗ばむ肌に張りついた細い栗色の髪をそっと払うと、透き通るような白い頬に衝動的に唇を寄せた。
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