忘却不能な恋煩い〜再会した彼は、恋焦がれた彼女を溺愛する〜
 突然店内が賑やかになり、カップル、女性四人組、スーツの男性が続け様に入店してくる。

 カップルと女性四人組は半個室へと案内され、スーツの男性はカウンターの一番奥の席に座った。

 すると紗世がニヤニヤしながら美琴の顔を見た。

「あの席って、三年前に美琴ちゃんがハメを外しちゃった場所だね」
「そうだった……」
「で、不毛な恋に何か進展はあったの?」

 美琴は首を横に振って下を向く。

「別れなきゃと思っているのに、奥さんが話し合いに応じてくれそうだとか、愛してるとか言われて、そのままホテルに行っちゃたりしてズルズル……」
「美琴ちゃんはその人のこと、好きなの?」
「……わからない。でも時々思うの。不倫じゃなくて普通の恋愛だったら、たぶん別れてると思う」
「それってもう気持ちは冷めてるってことじゃない?」
「……かもしれない。なのにありもしない未来展望に期待したり、自分に向けられる優しさにバカみたいな優越感を感じたり……私、本当に嫌な奴になってる。最悪。汚らしい……」

 紗世は美琴の背中を優しく叩く。

「それって男が体の関係を続けるために嘘をついてるって事でしょ? 不倫をするような男だから当然だけど、誠実さのカケラも感じない、女の敵ね」

 紗世の言葉は正しいとわかってるのに、何故かはっきりと言えない。

「美琴ちゃん、今幸せ?」

 美琴は首を横に振る。

「……本当のことを言うとね、三年前にここで彼と出会って、たった一夜の出来事だけど、今までにないくらい満たされたんだよね。またあんな風に愛されたい……あの時から愛されたい欲求が強くなっちゃったみたい。一人で生きていけるって思っていたのになぁ……。ちょっと優しくされるとその手にすがってしまう」
「……なんかその言い方だと、愛されたい相手はあの時の彼限定って聞こえる。本当は一夜とか言いながら、かなり好きだったんじゃない?」
「……かもしれない」

 その時食欲をそそるいい香りとともに、二人の前にパスタが運ばれてくる。

「とりあえずお腹を満たそう! 話はそれからね」

 紗世の笑顔に引き込まれ、美琴も自然と笑顔になれた。
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