忘却不能な恋煩い〜再会した彼は、恋焦がれた彼女を溺愛する〜
『ブルーエングループ エリアマネージャー
津山尋人』
「これって……」
「身分証代わりって渡されたの。不倫男よりはずっと誠実よね! 美琴ちゃんはなかなか奥手だし、それくらい真剣なら話すくらいはいいんじゃないのかなって」
あの後、二人のことは特に追及はしなかった。聞くとあの夜のことを話さないといけない気がして、それなら黙っていようと思ったのだ。
「もうここにはいないかもしれないけど、もし気になるなら試しに連絡してみたら?」
紗世の言葉に促され、美琴は名刺を手に取る。しかしその瞬間、背後から伸びてきた手に奪われてしまう。
「これはもう古い名刺だから回収させてもらうよ」
奥のカウンターに座っていたはずのスーツの男性が、いつの間にか美琴の隣にいた。
男は細身のダークグレーのスーツを身にまとい、短い黒髪からは清潔感が漂う。切れ長の瞳に見つめられ、美琴は動けなくなる。
あれっ、この目って……。
「まぁ俺もだけど、三年でだいぶ印象が変わるもんだな。あの時はまだあどけない感じだったのに」
「……!」
「思い出した? というか、今も俺の話してたもんな」
「えっ……まさか三年前の人? ちょっ、まるで別人じゃないですか! しかもこんなタイミングで……」
美琴の心拍数が上がっていく。血の気が引きそうだった。再会したことではなく、今までの話を聞かれていたことに恐怖を覚える。彼が座ったタイミングはしっかり覚えていた。だからこそ、彼が話を全て聞いていたと確信する。
「……でも驚いた。あの時が初めてだったあんたが、まさか不倫してるなんてな」
彼の言葉が刃のように心に突き刺さる。
「あんた俺に嘘つきは泥棒の始まりって言ったの覚えてる? そのあんたが男に嘘つかれて、まわりに嘘ついて、人の男を奪おうとしてるなんてな」
「そんなことしてない!」
「嘘つき」
美琴はカッとなって尋人の頬を叩こうとしたが、その手を掴まれてしまう。力が強く、振りほどくことが出来ない。
「離して……!」
「嫌だね。今日は逃がさない」