忘却不能な恋煩い〜再会した彼は、恋焦がれた彼女を溺愛する〜
 紗世は二人の様子を見ながら気が気ではなかった。座ってからずっとこちらに背を向けているのが気になっていたが、まさかあの時の男性だったとは……。

 するとカウンターの中からバーテンダーの男性がコースターを一枚紗世の前に置いた。二人に気付かれないようにそっと裏返すと、メッセージが書かれていた。

『彼に連絡をしたのは私です。この三年、彼は彼女を探していました。このまま見守っていただけませんか?』

 紗世は目を見開く。この男が美琴ちゃんを探していた? これが事実なら、美琴はずっと思い違いをしていたということ? 

 このまま見守っていれば、もしかしたら掛け違えたボタンを戻せるかもしれない。でも何かあったらと思うと、このまま置いて行くのも気が引ける。

「あの、すみません」

 紗世は泣いている美琴の肩を抱きながら男に話かけた。しかし男は美琴から視線を外そうとしない。誰に対するものかはわからないが、男の静かな怒りが伝わってくる。紗世はその空気に気持ちを潰されそうになるのを、深呼吸で堪えた。

「新しい名刺をいただけますか?」

 男は美琴の手を掴んだまま、片手で胸ポケットから名刺入れを取り出す。器用に中から一枚取り出すと、紗世にスッと渡した。

 受け取った名刺を見た紗世は目を丸くした。

『ブルーエングループ 専務 津山尋人』

 は……? この三年で役職上がりすぎじゃない?

「身分は証明出来ただろ? 彼女と二人になりたいんだけど」

 男は紗世を見ようともしない。この俺様男、まるで三年前と同じような会話じゃない。紗世は少しカチンときた。だがこの男の真剣な気持ちも伝わってくる。もしかしたら本当に美琴ちゃんを探していたのかもしれない。

 ふと先ほどの会話を思い出す。催眠術から目覚めるための何か。この人なら美琴ちゃんを導いてくれるのではと淡い期待を抱く。

「美琴ちゃん、一度話してみた方がいいよ。もしかしたら思い違いがあるかもしれない。これを機に、一歩踏み出そう」

 美琴は黙ったまま固まっている。

 紗世は抱いていた肩を優しく叩く。そして荷物をまとめると、三年前のように尋人を睨みつける。

「美琴ちゃんに何かあったら容赦しませんからね」
「……わかってる」
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