忘却不能な恋煩い〜再会した彼は、恋焦がれた彼女を溺愛する〜
店を後にする紗世の背中を見送る。美琴は急に不安になった。二人きりになるのが怖い。さっきみたいに罵られたら立ち直れないかもしれない。
「美琴、俺たちも出るぞ」
急に名前で呼ばれ、体がビクッと震えた。まだ手を掴まれたままだから、きっと尋人にも伝わったはずだった。それでも彼は美琴の手を引き、椅子から立ち上がらせる。
尋人は美琴の荷物を持つ。バーテンの男性に何か話しかけてから、扉を押して外に出る。フワッと初夏の生温い風が体をすり抜けて行く。
「……どこに行くんですか?」
駅とは反対方向に歩き出した尋人に聞いた。
「職場に車を置いてきたんだ」
「……お酒は?」
「今日は飲んでない」
素っ気ない反応。それは私もか……。
五分ほど歩くと、ブルーエングループの大きなビルが見えてきた。裏のエレベーターから地下に降りて、駐車場に向かう。その間、二人とも一言も発しなかった。今は何を言っても正解に辿り着けない気がしたのだ。
「乗って」
尋人は車のドアを開けると、助手席に美琴を座らせる。
美琴は尋人の車が国産のスポーツカーであることに少し驚いた。こういう車に乗るようには見えなかったのだ。
十五分程走ると、車はタワーマンションの駐車場に入っていく。
美琴の不安が更に大きくなっていく。
「ここって……」
美琴の言葉に返事はせず、尋人は車を駐車し、エンジンを切る。
「ここはどこかって? もちろん俺のマンション。ホテルだとまた逃げられる可能性があるから」
「だってあれは……!」
言いかけて唇を塞がれた。
「言い訳は後で聞いてやる。今度は逃がさないよ」
再びキスをされ、美琴はゆっくり目を閉じた。ダメなのに……あの時と同じ感情が胸の中で燻り始める。