忘却不能な恋煩い〜再会した彼は、恋焦がれた彼女を溺愛する〜

 一体どんな話をするつもりなんだろう……不倫のことには触れてほしくなかったが、それは無理だとわかっていた。

 一人分のスペースを空けて、尋人がドサっと座り込む。手には四角い大きな箱を持っていた。

「さっきは悪かったよ……。だからこれはお詫びの品! 好きなだけ食え!」

 さっきとはお店でのことだろうか。悪いと思ってくれたんだ……。少し心が軽くなった。それにしてもお詫びの品が高級チョコレートって……美琴は吹き出した。

「この時間に食べてどうなるかは知らんけどな」
「なんですか、それ。1日くらい大丈夫ですよ。ストレスの方が体に悪いし」

 一粒口に入れると、ちょっとだけ幸せな気持ちになる。自然と笑みが溢れた。

「ホワイトレディ飲んだ時みたいな顔してる」
「……美味しそうってこと?」
「まぁそんなとこ」

 尋人は持っていたジンジャーエールのペットボトルを開けると、少しだけ口に含んだ。このやりとり、三年前を思い出すな……やっぱり変わってない。あの日を思い返して目を閉じる。

「……三年前のあの日さ、仕事が立て込んでた頃で、ちょっと息抜きしに行ったんだ。飯食って、ちょっと酒飲んで帰るつもりだった」

 尋人は背もたれに倒れ込み、天井を見つめる。

「だけど奥の席から笑い声が聞こえてきて、何が面白いのかって聞き耳立ててたらさ、あまりのくだらなさにこっちが吹き出した」
「くだらないって……失礼すぎ」

 尋人は改めて思い出して笑い出す。

「会話の中心にいたのがお前でさ、ちょいちょい海外ドラマネタを入れてたよな。俺も全部がわかったわけじゃないけど、知らない人でも楽しめるっていうかさ……」

 美琴ははっとする。いつの間にか尋人が美琴の方を向いて手を握ってきたのだ。

「お前と話してみたいと思ったんだ」

 真っ直ぐ見つめられ、いたたまれなくなって目を逸らす。すると握られた手のひらがゆっくりと動き、今度は指が絡まる。美琴は急に恥ずかしくなって離そうと試みるが、より強く握られただけだった。

「まぁお前がかわいすきて話どころじゃなくなったけどな」

 確かに少ない会話だった。でも私はあなたとの会話、たぶん全部覚えてる。

「……これってなんの会話? ただの昔話なら聞きたくない」
「……なんで聞きたくないの?」
「それは……!」

 美琴は口をぎゅっと閉じる。尋人の顔を見ると、三年前に戻ったような気持ちになる。今でもこの人にときめいてしまう。
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