忘却不能な恋煩い〜再会した彼は、恋焦がれた彼女を溺愛する〜
 静かな部屋に、尋人の声が響く。

「さっき二人の話を聞いて、俺たちいろいろ思い違いをしてる気がしたんだ」
「思い違い?」

 やっと美琴が尋人の方を向く。表情はまだ固いままだ。尋人は握り合った手とは反対の手で美琴の頬を撫でる。

「嘘つきは泥棒の始まりだよな? 俺は嘘はつかない。全部正直に話す。約束する。だからお前も嘘はつかずに本心で話してほしい」

 美琴はしばらく黙っていたが、小さく頷いた。本心ってなんだろう。不安になるが、紗世の最後の言葉が背中を押してくれる。

 尋人は安心したのかソファの間合いを詰め、美琴の隣に移動した。

「一応言っておくけど、俺はそんなに遊んでないから。ちなみに今恋人もいないし結婚もしてない」

 嘘は言わないと今宣言してくれたばかりじゃない。信じないと……。

「あの夜のことは俺が一番驚いたんだ。今まであんなことなかったからさ。恥ずかしい話、あんなに夢中になったセックスは初めてで、処女って聞いても止められなかった」

 尋人は美琴の手にそっとキスをする。

「お前が疲れて寝た後にさ、次に目を覚ましたらもうお前がいなくなってるような予感がした……。ほら、ドラマとかでも真面目な子ほど大体男を置いて帰っちゃったりするだろ? あんな感じ。まぁその通りになったわけだけど」

 美琴は言葉を失った。そんなことを彼が思っていたなんて、微塵にも思わなかった。

「……ピアスは? どういう意味だったの?」

 尋人は微笑むと美琴にキスをした。

「寝ているお前にこうやってキスしたら、月の形のピアスが目に入ってさ。女々しいて言われたらおしまいだけど、何か俺の痕跡を残しておきたくなっただけ」
「……戦利品とかじゃないの?」
「それって俺が遊び人前提じゃん。どんな目で見てんだよ」
「だって……女慣れしてる感じがしたから……。津山さん素敵だから、私みたいな女を相手にするわけない、好きになったりして重いとか拒絶されたらどうしようとか思って……」
「逃げたわけか」

 頷くしかなかった。
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