忘却不能な恋煩い〜再会した彼は、恋焦がれた彼女を溺愛する〜
君の部屋
昨夜は車での帰宅ということもあり、美琴はマンションの部屋以外のことは何も分からなかった。地名すら分からずにいたのだ。
エレベーターで降りようとすると、ボタンではなくカードキーをタッチした。
「これないと出入り出来ないからさ。後で渡す」
「……ということは、どちらにしても私は一人じゃマンションから出られなかったっていうこと?」
「ご名答。ホテルで逃げられたからな、ここなら逃げられないだろ?」
まんまと彼の思う通りに進んでいることが癪に触る。
美琴は尋人のことを横目で観察した。昨日のスーツと違って、大きめの白いTシャツにカーキのパンツを合わせたカジュアルなスタイルだった。こういうのも似合うんだ……。新しい発見になんだかドキドキする。
エレベーターが一階に到着すると、エントランスの豪華さやコンシェルジュの存在に驚かされる。
私こんなマンションで生活出来るのだろうか。生まれてこのかた庶民の生活しかしてこなかった美琴は気後れしてしまう。
そんな美琴の様子に気付いたのか、尋人は手を差し出し美琴の手を引いてくれた。
「そこのカフェで朝食を食べてから、車でお前の家な」
尋人が指差したのは、マンション前の公園の中に佇むオープンカフェだった。
席を確保してから、店内でホットサンドとコーヒーを購入する。
緑の木々の中、朝の清々しい空気が美味しい。
「こういうのいいですね。外で朝ご飯だなんてなかなかないかも。ちょっとピクニック気分」
「気に入った?」
「とても」
「じゃあまた来ような」
また来よう……近い未来の話が嬉しい。そして誰かと一緒に朝食を食べるなんて、紗世と千鶴と三人で行った旅行以来だった。
これからはこういう時間が増えるのだろうか。美琴はホットサンドを口にして、美味しいと感じたことにちょっとした幸せを感じる。
「津山さんは……」
「尋人。昨日はベッドの中で何回も呼んでたのになぁ」
「……一応年上だから気を遣ったんです!」
「年齢教えたっけ?」
「三年前に二十六才って教えてくれたから、今は二十九才でしょ?」
「よく覚えてたな。美琴はあの時は新卒だったから、今は二十五?」
「半年後に二十六になる」
「そっか。じゃあその時には盛大に誕生日会をやろう」
彼はイタズラっぽく笑う。本当にいろいろな表情のある人。なんて魅力的なのかしら。
美琴は口ごもりながらも、精一杯の勇気を振り絞る。
「……尋人……?」
「ん?」
「なんでもない。言うこと忘れちゃった」
二人で朝食を食べる。彼の名前を呼ぶ。こんな些細なことが、こんなに幸せだなんて……。
尋人は飲んでいたコーヒーをテーブルに置くと、身を乗り出すように美琴に近付く。
「同居するにあたり、少しだけルールを決めたいんだけど」
急に態度が改まり、美琴は少し緊張した。
「そんな硬くならなくて良いよ。基本的に美琴の好きなように過ごしてくれていい。見てもらった通り、俺は寝に帰っているようなものだし」
「うん……」
「昨日も言ったけど、嘘はつかないこと、秘密もなしだ」
「うん」
「あともう一つ、あの男とは連絡はとらないこと。電話やメールが来ても無視しろ。何かあったら俺に相談するんだぞ、わかった?」
「でも……それじゃあいつまで経っても終わらせられない」
「大丈夫だよ。ちゃんと終わらせる」
「……わかった」
美琴は少し落ち込んでいるようにも見えたが、尋人は今はこれが正解だと信じていた。
今の美琴のまま会ったり話したりしたら、また流されて有耶無耶にされてしまう。きちんと拒絶出来るようになるまでは、あの男を美琴に近づけないようにしないと。
エレベーターで降りようとすると、ボタンではなくカードキーをタッチした。
「これないと出入り出来ないからさ。後で渡す」
「……ということは、どちらにしても私は一人じゃマンションから出られなかったっていうこと?」
「ご名答。ホテルで逃げられたからな、ここなら逃げられないだろ?」
まんまと彼の思う通りに進んでいることが癪に触る。
美琴は尋人のことを横目で観察した。昨日のスーツと違って、大きめの白いTシャツにカーキのパンツを合わせたカジュアルなスタイルだった。こういうのも似合うんだ……。新しい発見になんだかドキドキする。
エレベーターが一階に到着すると、エントランスの豪華さやコンシェルジュの存在に驚かされる。
私こんなマンションで生活出来るのだろうか。生まれてこのかた庶民の生活しかしてこなかった美琴は気後れしてしまう。
そんな美琴の様子に気付いたのか、尋人は手を差し出し美琴の手を引いてくれた。
「そこのカフェで朝食を食べてから、車でお前の家な」
尋人が指差したのは、マンション前の公園の中に佇むオープンカフェだった。
席を確保してから、店内でホットサンドとコーヒーを購入する。
緑の木々の中、朝の清々しい空気が美味しい。
「こういうのいいですね。外で朝ご飯だなんてなかなかないかも。ちょっとピクニック気分」
「気に入った?」
「とても」
「じゃあまた来ような」
また来よう……近い未来の話が嬉しい。そして誰かと一緒に朝食を食べるなんて、紗世と千鶴と三人で行った旅行以来だった。
これからはこういう時間が増えるのだろうか。美琴はホットサンドを口にして、美味しいと感じたことにちょっとした幸せを感じる。
「津山さんは……」
「尋人。昨日はベッドの中で何回も呼んでたのになぁ」
「……一応年上だから気を遣ったんです!」
「年齢教えたっけ?」
「三年前に二十六才って教えてくれたから、今は二十九才でしょ?」
「よく覚えてたな。美琴はあの時は新卒だったから、今は二十五?」
「半年後に二十六になる」
「そっか。じゃあその時には盛大に誕生日会をやろう」
彼はイタズラっぽく笑う。本当にいろいろな表情のある人。なんて魅力的なのかしら。
美琴は口ごもりながらも、精一杯の勇気を振り絞る。
「……尋人……?」
「ん?」
「なんでもない。言うこと忘れちゃった」
二人で朝食を食べる。彼の名前を呼ぶ。こんな些細なことが、こんなに幸せだなんて……。
尋人は飲んでいたコーヒーをテーブルに置くと、身を乗り出すように美琴に近付く。
「同居するにあたり、少しだけルールを決めたいんだけど」
急に態度が改まり、美琴は少し緊張した。
「そんな硬くならなくて良いよ。基本的に美琴の好きなように過ごしてくれていい。見てもらった通り、俺は寝に帰っているようなものだし」
「うん……」
「昨日も言ったけど、嘘はつかないこと、秘密もなしだ」
「うん」
「あともう一つ、あの男とは連絡はとらないこと。電話やメールが来ても無視しろ。何かあったら俺に相談するんだぞ、わかった?」
「でも……それじゃあいつまで経っても終わらせられない」
「大丈夫だよ。ちゃんと終わらせる」
「……わかった」
美琴は少し落ち込んでいるようにも見えたが、尋人は今はこれが正解だと信じていた。
今の美琴のまま会ったり話したりしたら、また流されて有耶無耶にされてしまう。きちんと拒絶出来るようになるまでは、あの男を美琴に近づけないようにしないと。