忘却不能な恋煩い〜再会した彼は、恋焦がれた彼女を溺愛する〜
「夕飯どうする? 何か頼んじゃってもいいし、なんなら食べに行く?」
冷蔵庫を開けると、いくつか作れそうなメニューが浮かぶ。カレーがいいけど、今からご飯を炊くと間に合わない。昨日買ったパンがあるから、冷凍のシーフードでクラムチャウダーとかならすぐに出来そう。
美琴は洗面所にいる尋人に問いかける。
「市販のルーで良ければ、クラムチャウダーとサラダくらいならすぐに作れるけど」
「いいね、お願い出来る?」
美琴が作っている間、尋人は乾燥した洗濯物を畳んだり、お風呂の湯をためたり、家のことを自然とこなしていく。少しでも手伝ってくれると助かる。
「家事とか慣れてたりするの?」
料理をしながら尋ねてみた。
「一人暮らしが長いからね。今やるべきことくらいはわかるよ」
そして尋人は美琴の背後に回ると、後ろから抱きしめる。
「何か手伝うことはある?」
そういえば、昨日の朝もこうやってバッグハグされたっけ。そんなに嫌じゃないんだよね。むしろ彼を近くに感じられて安心する。尋人もこんな想いなのだろうか。
「じゃあ焦げないようにかき混ぜてくれる? その間にサラダ作っちゃうから」
美琴に頼まれ、尋人は楽しそうにかきまぜる。
「なんかこういうのいいな。一緒に作って食べる」
「うん、私もそう思う……」
一人の食事も気楽でいいんだけど、どこか適当になってしまう。
「おっ、美味いじゃん」
こんなふうに感想を言ってくれる誰かがいるのは嬉しい。
食後の休憩をしていると、尋人が洗い物をしてくれたので、やることがなくなった美琴は気が抜けてしまった。もう動けない……。
「美琴、先に風呂入ってきていいよ」
私ってば、こんなに至れり尽くせりでいいのだろうか。ダメ人間になってしまいそう……。
「えっ……でも悪いし……」
「俺も片付け終わったら入るからさ」
「えっと……じゃあお言葉に甘えて……」
「はいはい、ごゆっくり」
美琴は着替えを取りに寝室へ行き、そそくさと洗面所に入って扉を閉める。
尋人だって疲れているはずだし、なるべく早く出よう……そう思っていたのに、尋人の家の広い浴槽の中ではついだらけてしまう。
我が家の浴槽の倍はあるかなぁ……家風呂とは思えない。
そんなふうに気持ちも溶け切ってしまっていた頃、ドアが勢いよく開いた。
「さぁ俺も入るかな」
美琴は驚いて、慌てて体を隠した。
「な、なんで平然と入ってるんですか!」
「なんでって、片付けが終わったから入りに来ただけ」
尋人は明らかに笑いを堪えながら話す。
「あっ、俺が入るまで出るなよ」
体が半分浴槽から出ていた美琴は、とりあえずその場に留まる。尋人が入った瞬間に出よう。
尋人は頭と体を洗い終えると、美琴の魂胆を読んでいたかのように、腕を掴むと、浴槽に滑り込んだ自分の膝に乗せた。
「あ〜いい湯だなぁ。一人だとシャワーで済ませることが多いからさ」
まただ。この人は美琴の背後を取るのが好きなのだろうか。
「こ、こういうことはダメです……付き合ってるわけじゃないし……」
顔が見えないとはいえ、美琴は恥ずかしさと気まずさから下を向く。
「でももう二回もエッチしてるし」
「私たちは一応同居なんですよ……これは同居の域を超えてる……」
尋人の手が伸びて、美琴を体を抱きしめる。
「じゃあ同棲にしない?」
「はっ……? 私たち再会してまだ四日なのに……」
「初めて会って付き合う人だっているだろ? 焦らなくていいとは言ったけど、俺はこの四日で既に美琴を自分のものにしたくなってる」
顔が見えなくて良かった。私今きっとすごい顔してる。嬉しくて泣きそう。
「俺の中では今日は四回目? いや違うな。三年前もあるから、今日は五回目のデートみたいな感じ? お互いを知るには十分じゃない?」
「……五回目のデートで一緒にお風呂なの?」
「そんなこと言ったら、俺たち一回目のデートでセックスじゃん。まぁペースは人それぞれなんじゃない?」
尋人の手がゆっくりと美琴の胸の上を滑る。
「やっぱり相性いいと思うんだけど……。美琴はどう思う?」
尋人の指の動きに合わせて呼吸が速くなる。
「……まだわからないよ……でも……」
「でも?」
「……もっと一緒にいたいって思う」
その瞬間、美琴は顔を引き寄せられるとキスをされる。息が出来なくてのぼせそうなくらい熱いキス。
「美琴……好きだよ、愛してる。ねぇ、俺と付き合って、というか同棲しよう」
「で、でも私……」
言いかけた口をキスで塞がれる。
「今は二股でいいじゃん。美琴はそういうの嫌いかもしれないけど、俺は美琴を早く幸せにしたい」
私だって幸せになりたい。この言葉を信じていいの? 信じたい。なのに不安感が払拭出来ない自分もどこかにいる。
「むしろお前がそいつと早く別れたいと思うくらい愛してやるよ」
そんなこと、とっくに思ってる。
「……なんでこんな平凡な私に、そんな素敵なこと言ってくれるの? 夢か現実かわからなくなる」
尋人は美琴の体を抱えて自分の方に向かせる。やっと顔が見えた。美琴は自分で気付いてるのかな。今までで一番穏やかな顔をしてること。
「平凡なんかじゃないよ。俺からしたらかわいくて仕方がない」
その時美琴ははっとして難しい表情を浮かべると、下の方を指差す。
「硬くなってる……」
「一応男なんで。でも俺から誘うのは禁止だしなぁ」
美琴は困惑する。
「今は二股になっちゃうけど……恋人って思っていいの……?」
尋人が頷く。
あぁ、自分から言い出したことなのに、私の決心ってどれだけ脆いのかしら……。それでも彼が与えてくれる快楽を思い出しただけで、体中が熱くなって、腰が砕けそうになる。
「……ここじゃなくて、ベッドがいいな……」
「それはお誘いと受け取っていいのかな?」
尋人がニヤニヤして美琴の反応を伺っていると、諦めたように小さく頷く。
「了解、かわいい彼女様」
ほら、まただ。また彼に導火線に火をつけられてしまった。
美琴は尋人の首に腕を回し、抱えられまま寝室へと向かった。
* * * *
尋人は寝入ってしまった美琴の髪を撫でながら、ささやかな幸せに浸っていた。
まぁ二股とはいえ、一応恋人に昇格した。
尋人の表情が曇る。
この四日間、尋人の知る限りその男からの連絡は来ていない。来ていたら美琴の態度でわかるはずだった。
なんだか腑に落ちないんだよな……。頻繁に連絡を取らないカップルだってもちろんいる。だがバーでの話を聞く限り、相手の男の方が美琴を繋ぎ止めようとしていたように感じた。
これは調べた方がいいのかもしれないな。
その時美琴がモゾモゾと動き、尋人の腕を探すと、自分の頭を乗せる。
「まだ起きてるの?」
「美琴の寝顔がかわいいから見てた」
「……もう、調子良いこと言って」
そして亀のように布団の中に潜ってしまった。
「三年前、美琴に話しかけて良かったって思ってさ……。あの時一緒にいた二人ってずっと仲良いの?」
「うん、大学で仲良くなったの。髪がゆるっとパーマだった子、覚えてる? 千鶴は同じサークルの先輩と結婚が決まって、最近は式の準備で忙しいみたい」
「あぁ、美琴と話したいって言った時に、割とやんわりと許してくれた子だ。もう一人の子はかなりチェックが厳しかった」
「そうかも。責任感がすごく強くて。でも紗世はすごく頼りになるの。今はA&B食品の新商品開発副リーダーだし」
「じゃあ近いうちに二人にお礼をしないとな」
美琴はクスクス笑いながら、気持ち良さそうにまた寝息を立て始めた。その無防備な姿が愛しくて、尋人は美琴の額にくちづける。
A&B食品の新商品開発副リーダーの紗世。良い情報だ。確か高校の後輩が営業部にいたはず……。探りを入れてみるか。
冷蔵庫を開けると、いくつか作れそうなメニューが浮かぶ。カレーがいいけど、今からご飯を炊くと間に合わない。昨日買ったパンがあるから、冷凍のシーフードでクラムチャウダーとかならすぐに出来そう。
美琴は洗面所にいる尋人に問いかける。
「市販のルーで良ければ、クラムチャウダーとサラダくらいならすぐに作れるけど」
「いいね、お願い出来る?」
美琴が作っている間、尋人は乾燥した洗濯物を畳んだり、お風呂の湯をためたり、家のことを自然とこなしていく。少しでも手伝ってくれると助かる。
「家事とか慣れてたりするの?」
料理をしながら尋ねてみた。
「一人暮らしが長いからね。今やるべきことくらいはわかるよ」
そして尋人は美琴の背後に回ると、後ろから抱きしめる。
「何か手伝うことはある?」
そういえば、昨日の朝もこうやってバッグハグされたっけ。そんなに嫌じゃないんだよね。むしろ彼を近くに感じられて安心する。尋人もこんな想いなのだろうか。
「じゃあ焦げないようにかき混ぜてくれる? その間にサラダ作っちゃうから」
美琴に頼まれ、尋人は楽しそうにかきまぜる。
「なんかこういうのいいな。一緒に作って食べる」
「うん、私もそう思う……」
一人の食事も気楽でいいんだけど、どこか適当になってしまう。
「おっ、美味いじゃん」
こんなふうに感想を言ってくれる誰かがいるのは嬉しい。
食後の休憩をしていると、尋人が洗い物をしてくれたので、やることがなくなった美琴は気が抜けてしまった。もう動けない……。
「美琴、先に風呂入ってきていいよ」
私ってば、こんなに至れり尽くせりでいいのだろうか。ダメ人間になってしまいそう……。
「えっ……でも悪いし……」
「俺も片付け終わったら入るからさ」
「えっと……じゃあお言葉に甘えて……」
「はいはい、ごゆっくり」
美琴は着替えを取りに寝室へ行き、そそくさと洗面所に入って扉を閉める。
尋人だって疲れているはずだし、なるべく早く出よう……そう思っていたのに、尋人の家の広い浴槽の中ではついだらけてしまう。
我が家の浴槽の倍はあるかなぁ……家風呂とは思えない。
そんなふうに気持ちも溶け切ってしまっていた頃、ドアが勢いよく開いた。
「さぁ俺も入るかな」
美琴は驚いて、慌てて体を隠した。
「な、なんで平然と入ってるんですか!」
「なんでって、片付けが終わったから入りに来ただけ」
尋人は明らかに笑いを堪えながら話す。
「あっ、俺が入るまで出るなよ」
体が半分浴槽から出ていた美琴は、とりあえずその場に留まる。尋人が入った瞬間に出よう。
尋人は頭と体を洗い終えると、美琴の魂胆を読んでいたかのように、腕を掴むと、浴槽に滑り込んだ自分の膝に乗せた。
「あ〜いい湯だなぁ。一人だとシャワーで済ませることが多いからさ」
まただ。この人は美琴の背後を取るのが好きなのだろうか。
「こ、こういうことはダメです……付き合ってるわけじゃないし……」
顔が見えないとはいえ、美琴は恥ずかしさと気まずさから下を向く。
「でももう二回もエッチしてるし」
「私たちは一応同居なんですよ……これは同居の域を超えてる……」
尋人の手が伸びて、美琴を体を抱きしめる。
「じゃあ同棲にしない?」
「はっ……? 私たち再会してまだ四日なのに……」
「初めて会って付き合う人だっているだろ? 焦らなくていいとは言ったけど、俺はこの四日で既に美琴を自分のものにしたくなってる」
顔が見えなくて良かった。私今きっとすごい顔してる。嬉しくて泣きそう。
「俺の中では今日は四回目? いや違うな。三年前もあるから、今日は五回目のデートみたいな感じ? お互いを知るには十分じゃない?」
「……五回目のデートで一緒にお風呂なの?」
「そんなこと言ったら、俺たち一回目のデートでセックスじゃん。まぁペースは人それぞれなんじゃない?」
尋人の手がゆっくりと美琴の胸の上を滑る。
「やっぱり相性いいと思うんだけど……。美琴はどう思う?」
尋人の指の動きに合わせて呼吸が速くなる。
「……まだわからないよ……でも……」
「でも?」
「……もっと一緒にいたいって思う」
その瞬間、美琴は顔を引き寄せられるとキスをされる。息が出来なくてのぼせそうなくらい熱いキス。
「美琴……好きだよ、愛してる。ねぇ、俺と付き合って、というか同棲しよう」
「で、でも私……」
言いかけた口をキスで塞がれる。
「今は二股でいいじゃん。美琴はそういうの嫌いかもしれないけど、俺は美琴を早く幸せにしたい」
私だって幸せになりたい。この言葉を信じていいの? 信じたい。なのに不安感が払拭出来ない自分もどこかにいる。
「むしろお前がそいつと早く別れたいと思うくらい愛してやるよ」
そんなこと、とっくに思ってる。
「……なんでこんな平凡な私に、そんな素敵なこと言ってくれるの? 夢か現実かわからなくなる」
尋人は美琴の体を抱えて自分の方に向かせる。やっと顔が見えた。美琴は自分で気付いてるのかな。今までで一番穏やかな顔をしてること。
「平凡なんかじゃないよ。俺からしたらかわいくて仕方がない」
その時美琴ははっとして難しい表情を浮かべると、下の方を指差す。
「硬くなってる……」
「一応男なんで。でも俺から誘うのは禁止だしなぁ」
美琴は困惑する。
「今は二股になっちゃうけど……恋人って思っていいの……?」
尋人が頷く。
あぁ、自分から言い出したことなのに、私の決心ってどれだけ脆いのかしら……。それでも彼が与えてくれる快楽を思い出しただけで、体中が熱くなって、腰が砕けそうになる。
「……ここじゃなくて、ベッドがいいな……」
「それはお誘いと受け取っていいのかな?」
尋人がニヤニヤして美琴の反応を伺っていると、諦めたように小さく頷く。
「了解、かわいい彼女様」
ほら、まただ。また彼に導火線に火をつけられてしまった。
美琴は尋人の首に腕を回し、抱えられまま寝室へと向かった。
* * * *
尋人は寝入ってしまった美琴の髪を撫でながら、ささやかな幸せに浸っていた。
まぁ二股とはいえ、一応恋人に昇格した。
尋人の表情が曇る。
この四日間、尋人の知る限りその男からの連絡は来ていない。来ていたら美琴の態度でわかるはずだった。
なんだか腑に落ちないんだよな……。頻繁に連絡を取らないカップルだってもちろんいる。だがバーでの話を聞く限り、相手の男の方が美琴を繋ぎ止めようとしていたように感じた。
これは調べた方がいいのかもしれないな。
その時美琴がモゾモゾと動き、尋人の腕を探すと、自分の頭を乗せる。
「まだ起きてるの?」
「美琴の寝顔がかわいいから見てた」
「……もう、調子良いこと言って」
そして亀のように布団の中に潜ってしまった。
「三年前、美琴に話しかけて良かったって思ってさ……。あの時一緒にいた二人ってずっと仲良いの?」
「うん、大学で仲良くなったの。髪がゆるっとパーマだった子、覚えてる? 千鶴は同じサークルの先輩と結婚が決まって、最近は式の準備で忙しいみたい」
「あぁ、美琴と話したいって言った時に、割とやんわりと許してくれた子だ。もう一人の子はかなりチェックが厳しかった」
「そうかも。責任感がすごく強くて。でも紗世はすごく頼りになるの。今はA&B食品の新商品開発副リーダーだし」
「じゃあ近いうちに二人にお礼をしないとな」
美琴はクスクス笑いながら、気持ち良さそうにまた寝息を立て始めた。その無防備な姿が愛しくて、尋人は美琴の額にくちづける。
A&B食品の新商品開発副リーダーの紗世。良い情報だ。確か高校の後輩が営業部にいたはず……。探りを入れてみるか。