忘却不能な恋煩い〜再会した彼は、恋焦がれた彼女を溺愛する〜
尋人はソファに座ったまま息を切らしていた。ソファの背もたれに体を丸ごと預ける。力なく果てた美琴が、尋人の胸の上に倒れ込んだ。
小さな背中が大きく揺れている。尋人はその背中が愛おしくて、出来る限りの力で抱きしめる。
だが尋人の心の中は自己嫌悪でいっぱいだった。
怒り、嫉妬、悲哀、愛情、いろいろな想いが入り乱れ、抑えが効かなくなってしまったのだ。
きっと美琴を傷つけた……でもわかって欲しかったんだ。美琴より辛く苦しむ人がいること。そのことを気に留めない理不尽な奴がいること。そんな奴よりずっと愛してくれてる人がいることを。
でも一番大きな感情は怒りだった。こんなに純粋で、汚れとは程遠い生活をしていた美琴を苦しめたあの男を許す気にはなれなかった。
俺がいずれ制裁を加えてやる。
「尋人……」
「ん?」
囁くような声で呼ばれた。今も尋人の胸に寄りかかったままの美琴の髪に触れる。
「……ちゃんと叱ってくれてありがとう……」
「いや……俺こそ酷いこと言って悪かった」
美琴は首を横に振る。
「尋人は正しい方に導いてくれたの。厳しいけど、それは尋人の優しさだってわかるから」
なんかそこまで言われると、俺の方が照れるな……尋人は片手で目を覆う。
「じゃあ……今度は俺の話をしてもいい?」
「うん……」
「昔話なんだけど……こんなこと言ったら美琴に軽蔑されるかもしれないけどさ……。社会人になってから仕事が忙しくて、特定の彼女とか作るのもちょっと面倒だなぁと思ってたんだ。一夜の関係はあっても、それでおしまい」
胸にかかる美琴の髪がくすぐったい。
「美琴が言う通り、美琴のことも最初は一晩だけって思ってたんだ。後腐れなく、一時の快楽を共有してさようなら。なのに行為の後に、美琴が愛おしくてたまらなくなって……。あんな気持ちになったのは後にも先にも美琴だけだった」
「……じゃあ私が帰らないように起きててくれたら良かったのに」
「あの頃は忙しくて残業続きで、そんな体力なかったんだよ」
「そっか……アメリカにいた時も、私のことを思い出したりした?」
「まぁね、いろいろ関係を持っても、やっぱり一番満たされたのは美琴だけだった」
「いろいろ……? ちょっと妬ける……」
ようやく顔を上げた美琴は、珍しく怒っているように見えた。
危険を察知した尋人は慌ててフォローする。
「でもそれは美琴が特別ってことに気付くきっかけにもなったわけだし!」
「……わかった。そういうことにしておく」
「……再会した時、自分の気持ちは会えない時間が作り上げた妄想みたいなもので、いないからこそ美化してるのかなって思ってたんだ」
それは美琴も同じだった。きれいな思い出に作り替えているような気がして、現実を知るのが怖かった。
「なのに不思議なんだよなぁ。美琴をこの部屋に連れてきて会話しているうちに、いつの間にかあの日の続きが始まってた。もっとぎこちない生活になるんじゃないかって想像してたのに、当たり前のように二人の生活が始まって続いてる」
「……私も。無理してないし、むしろリラックスしてる気がする」
「出会った日数とか時間とかは関係ないのかな……」
美琴は尋人の手を取り、自分の頬に持ってくる。その姿がかわいくて、目を細めた。
「歴史にもしもはないって言うけどさ、前にアメリカに行った後、二人は続かなかったと思うって言ったよな。あの考えは間違っていたかもしれない。今の美琴と接していると、俺がアメリカに行っても待っていてくれたんじゃないかって思うんだ。俺も美琴に会うために帰国したりしてさ」
そんなの例え話で現実はわからない。でもそんなことが想像出来るくらい、今のこの関係に満たされているんだと思う。
美琴はたとえ想像の話だったとしても、尋人が二人のことをそんなふうに考えてくれたことが嬉しかった。
「さっ、話はおしまい。明日も仕事だし、そろそろ寝るとするか」
尋人は美琴の乱れたパジャマを直してから、そっと体を抱き上げ寝室に向かう。
「ドラマ、見逃しちゃった……」
「またいつでも見られるから」
ベッドに入ってから美琴は紗世のことをふと思い出した。
「そうだ。金曜日の夜に紗世に誘われて、またあのバーに行ってくるね」
「了解。いろいろ報告するの?」
「まぁ……今の状況は紗世のおかげだし……」
「あまり遅くならないように」
「はーい……」
尋人に優しく頭を撫でられ、額にキスをされる。本当に甘々だ……そして美琴はゆっくり目を閉じた。
美琴が眠りにつくのを確認して、尋人もベッドに横になる。
美琴が愛しいから大事にしたい。なのに美琴を激しく求めたいという俺もいる。
彼女を傷つけないよう、もっと大人な対応をしないと……。もう二度と美琴を失いたくないから。
小さな背中が大きく揺れている。尋人はその背中が愛おしくて、出来る限りの力で抱きしめる。
だが尋人の心の中は自己嫌悪でいっぱいだった。
怒り、嫉妬、悲哀、愛情、いろいろな想いが入り乱れ、抑えが効かなくなってしまったのだ。
きっと美琴を傷つけた……でもわかって欲しかったんだ。美琴より辛く苦しむ人がいること。そのことを気に留めない理不尽な奴がいること。そんな奴よりずっと愛してくれてる人がいることを。
でも一番大きな感情は怒りだった。こんなに純粋で、汚れとは程遠い生活をしていた美琴を苦しめたあの男を許す気にはなれなかった。
俺がいずれ制裁を加えてやる。
「尋人……」
「ん?」
囁くような声で呼ばれた。今も尋人の胸に寄りかかったままの美琴の髪に触れる。
「……ちゃんと叱ってくれてありがとう……」
「いや……俺こそ酷いこと言って悪かった」
美琴は首を横に振る。
「尋人は正しい方に導いてくれたの。厳しいけど、それは尋人の優しさだってわかるから」
なんかそこまで言われると、俺の方が照れるな……尋人は片手で目を覆う。
「じゃあ……今度は俺の話をしてもいい?」
「うん……」
「昔話なんだけど……こんなこと言ったら美琴に軽蔑されるかもしれないけどさ……。社会人になってから仕事が忙しくて、特定の彼女とか作るのもちょっと面倒だなぁと思ってたんだ。一夜の関係はあっても、それでおしまい」
胸にかかる美琴の髪がくすぐったい。
「美琴が言う通り、美琴のことも最初は一晩だけって思ってたんだ。後腐れなく、一時の快楽を共有してさようなら。なのに行為の後に、美琴が愛おしくてたまらなくなって……。あんな気持ちになったのは後にも先にも美琴だけだった」
「……じゃあ私が帰らないように起きててくれたら良かったのに」
「あの頃は忙しくて残業続きで、そんな体力なかったんだよ」
「そっか……アメリカにいた時も、私のことを思い出したりした?」
「まぁね、いろいろ関係を持っても、やっぱり一番満たされたのは美琴だけだった」
「いろいろ……? ちょっと妬ける……」
ようやく顔を上げた美琴は、珍しく怒っているように見えた。
危険を察知した尋人は慌ててフォローする。
「でもそれは美琴が特別ってことに気付くきっかけにもなったわけだし!」
「……わかった。そういうことにしておく」
「……再会した時、自分の気持ちは会えない時間が作り上げた妄想みたいなもので、いないからこそ美化してるのかなって思ってたんだ」
それは美琴も同じだった。きれいな思い出に作り替えているような気がして、現実を知るのが怖かった。
「なのに不思議なんだよなぁ。美琴をこの部屋に連れてきて会話しているうちに、いつの間にかあの日の続きが始まってた。もっとぎこちない生活になるんじゃないかって想像してたのに、当たり前のように二人の生活が始まって続いてる」
「……私も。無理してないし、むしろリラックスしてる気がする」
「出会った日数とか時間とかは関係ないのかな……」
美琴は尋人の手を取り、自分の頬に持ってくる。その姿がかわいくて、目を細めた。
「歴史にもしもはないって言うけどさ、前にアメリカに行った後、二人は続かなかったと思うって言ったよな。あの考えは間違っていたかもしれない。今の美琴と接していると、俺がアメリカに行っても待っていてくれたんじゃないかって思うんだ。俺も美琴に会うために帰国したりしてさ」
そんなの例え話で現実はわからない。でもそんなことが想像出来るくらい、今のこの関係に満たされているんだと思う。
美琴はたとえ想像の話だったとしても、尋人が二人のことをそんなふうに考えてくれたことが嬉しかった。
「さっ、話はおしまい。明日も仕事だし、そろそろ寝るとするか」
尋人は美琴の乱れたパジャマを直してから、そっと体を抱き上げ寝室に向かう。
「ドラマ、見逃しちゃった……」
「またいつでも見られるから」
ベッドに入ってから美琴は紗世のことをふと思い出した。
「そうだ。金曜日の夜に紗世に誘われて、またあのバーに行ってくるね」
「了解。いろいろ報告するの?」
「まぁ……今の状況は紗世のおかげだし……」
「あまり遅くならないように」
「はーい……」
尋人に優しく頭を撫でられ、額にキスをされる。本当に甘々だ……そして美琴はゆっくり目を閉じた。
美琴が眠りにつくのを確認して、尋人もベッドに横になる。
美琴が愛しいから大事にしたい。なのに美琴を激しく求めたいという俺もいる。
彼女を傷つけないよう、もっと大人な対応をしないと……。もう二度と美琴を失いたくないから。