忘却不能な恋煩い〜再会した彼は、恋焦がれた彼女を溺愛する〜
二人きりの旅行
送迎をしてもらった一週間は、山脇からの接触もなく過ぎて行った。
美琴は尋人から旅行先の場所について教えてもらえず悶々としていた。
「ヒントが欲しい」
「……そうだなぁ。ここから車で三時間以内で着く所」
それってヒント? 周りの県全てが該当するじゃない。美琴はネットを開くと、手当たり次第に旅行ガイドの本を買い物カゴに入れていく。
「おいおい! 何冊買うんだよ!」
「だって教えてくれないから」
その言葉を聞いて、尋人は渋々一冊の本を指差す。
「サプライズにしたかったのに」
「私はサプライズより、計画を練って無駄なく観光したい」
「美琴……もしや思った以上に楽しみにしてる?」
「旅行が久しぶりで……ワクワクして眠れなくなってる」
「小学生の遠足前かよ」
ソファに座ったままスマホをいじる美琴は興奮状態を隠しきれず、尋人を爆笑させた。
「どの辺りに行くかは当日まで秘密だから、全ての地域の中から行きたい所を考えておくこと」
「了解!」
旅行は好きだが、こればかりは予定が合わなければ行くことは出来ない。最近は友達とも行くことがなくなっていた。
一人旅も憧れたが、どこか躊躇ってしてしまう自分がいた。
「旅行とか好きなの?」
「うん、なかなか行けないけど好き。観光したり、現地のものを食べたり、新しい文化に触れるのが楽しいの。国内だって、地域が変われば異文化体験だし……って、尋人はアメリカにいたから既に異文化体験してるね」
「まぁな。でも国内も好きだから、大学生の時に自転車で日本縦断したことあるし」
「えっ、凄い……。尋人はやることが大きいなぁ。わたしなんて一人旅ですら躊躇しちゃうのに」
「女の子はいろいろ気を付けないといけないこともあるしさ。これから二人で行けば良くない?」
超能力があるんじゃないかと錯覚するくらい、この人は私が欲しい言葉をくれる。
不思議だなぁ……そばにいてこんなに心地良い。
美琴は尋人に寄り掛かる。彼の手に肩を抱かれると安心した。
尋人とずっと一緒にいたいって思うの。
* * * *
車は高速道路を走っていた。
尋人はゆっくり出発しようと言ったが、美琴は時間がもったいないからと早く出発したがったため、サービスエリアで朝食を済ませた。
時間が早いこともあり、道路は思った以上に空いている。
助手席の美琴に目をやると、楽しそうにガイドブックを見ている。あれが届いたの、確か一昨日だったよな……。しかし本はかなり読み込まれ、クタクタになっている。
美琴がこんなに興奮してるのって、ダイニングテーブルが届いた日以来じゃないか? 尋人ふ美琴が喜んでくれていることが嬉しかった。
珍しく尚政に感謝だな。
「予定より早めに到着しそうだけど、行きたい所はある?」
美琴の顔がパッと明るくなる。
「この次のインターを降りると滝があるんだって! それを見てからこのお寺でしょ、でこの街を散策して、ご当地ソフトクリームをいただきたいです!」
すっげえ念入りに調べてるじゃん。鼻息の荒い美琴もかわいい。
今日は珍しく髪を上の方で一本に縛ってるため、首筋が露わになって尋人の気持ちをざわつかせる。
「次のインターね」
尋人は美琴が本で顔を隠しながらこちらを見ていることに気付く。
「どうかした?」
「うっ、なんでもない」
運転する尋人がカッコいいなんて恥ずかしくて言えない。最近は千葉さんが運転する車にしか乗っていなかったから、改めて尋人の横顔や、ギアを操作する手にときめいてしまった。
夜になったら、また私に触れてくれるのかな……私も早く尋人に触れたい……。
と思いつつ、今日は観光を楽しもうと意気込むのだった。
* * * *
学校の修学旅行や合宿を除けば、男の人と二人で旅行なんて初めての経験だった。
友達との旅行はケンカしないように気をつけようと心がけていた。でも尋人とは気を遣わずにいつも通り楽しむ事が出来ている。
やっぱり一緒に暮らしてるからかな。良いところもダメなところも全部見られてしまっているし、隠してもいずれバレる。ならばそれが今であっても変わらない気がしていた。
車を駐車場に停めて、滝までの山道を下る。
「これ、帰りは上りだね〜」
滝に到着すると、意外にも尋人の方が気持ち良さそうに目を閉じ、大きく息を吸い込む。
「なんか癒されるな……」
「そうだね……」
気持ちを共有できることが嬉しい。
案の定帰りは登りだったが、互いに励まし合いながら登り切る。
歩いて近くの寺にお参りしてから、ご当地のわさびのソフトクリームを食べる。
「意外とワサビが辛くないんだ! 美味しい〜」
「……俺は普通のソフトクリームで良かったかな」
「わかってないなぁ。ここでしか食べられないんだよ。やっぱり郷に行っては郷に従えでしょ」
「……別に地元の人がこれを食べてるわけじゃないだろ?」
「いいじゃない。思い出だし経験だよ。尋人と一緒に食べたね〜っていつか思い出すはずだから」
「うん……まぁそうだな」
美琴は尋人のソファクリームにのっていたワサビを自分のソフトクリームにのせる。
「はい、これで普通のソフトクリームになったよ。辛いの苦手だった?」
美琴って本当にすごい。俺が何言っても怒らないんだよなぁ。つい楽しくなってからかっても冷静に返すし。
まぁあの兄がいるくらいだからな、やはり自然と懐が深くなるのだろうか。
だからこそ美琴の前では変に意地も張らずにいられるんだ。
「私の行きたい所ばかりになってるけど、尋人はどこか行きたい所はないの?」
「……早く宿に行きたい」
「却下です。宿へは夕方到着、それまで遊びます」
「マジですか、美琴さん……」
「マジです。まぁ……夜は長いし……ね」
恥ずかしそうに上目遣いで尋人を見つめた。
「それってつまり、美琴も期待してくれてるってこと?」
「……そういうこと……かな?」
それなら夜に向けて美琴を満足させないとな。尋人は自然と笑顔になった。
「じゃあ日本一長い吊り橋は?」
「うん、いいね! 気になってた!」
初めての旅行だし、たくさん思い出を作ろう。これからずっと繋がっていく最初の一ページになるように。
美琴は尋人から旅行先の場所について教えてもらえず悶々としていた。
「ヒントが欲しい」
「……そうだなぁ。ここから車で三時間以内で着く所」
それってヒント? 周りの県全てが該当するじゃない。美琴はネットを開くと、手当たり次第に旅行ガイドの本を買い物カゴに入れていく。
「おいおい! 何冊買うんだよ!」
「だって教えてくれないから」
その言葉を聞いて、尋人は渋々一冊の本を指差す。
「サプライズにしたかったのに」
「私はサプライズより、計画を練って無駄なく観光したい」
「美琴……もしや思った以上に楽しみにしてる?」
「旅行が久しぶりで……ワクワクして眠れなくなってる」
「小学生の遠足前かよ」
ソファに座ったままスマホをいじる美琴は興奮状態を隠しきれず、尋人を爆笑させた。
「どの辺りに行くかは当日まで秘密だから、全ての地域の中から行きたい所を考えておくこと」
「了解!」
旅行は好きだが、こればかりは予定が合わなければ行くことは出来ない。最近は友達とも行くことがなくなっていた。
一人旅も憧れたが、どこか躊躇ってしてしまう自分がいた。
「旅行とか好きなの?」
「うん、なかなか行けないけど好き。観光したり、現地のものを食べたり、新しい文化に触れるのが楽しいの。国内だって、地域が変われば異文化体験だし……って、尋人はアメリカにいたから既に異文化体験してるね」
「まぁな。でも国内も好きだから、大学生の時に自転車で日本縦断したことあるし」
「えっ、凄い……。尋人はやることが大きいなぁ。わたしなんて一人旅ですら躊躇しちゃうのに」
「女の子はいろいろ気を付けないといけないこともあるしさ。これから二人で行けば良くない?」
超能力があるんじゃないかと錯覚するくらい、この人は私が欲しい言葉をくれる。
不思議だなぁ……そばにいてこんなに心地良い。
美琴は尋人に寄り掛かる。彼の手に肩を抱かれると安心した。
尋人とずっと一緒にいたいって思うの。
* * * *
車は高速道路を走っていた。
尋人はゆっくり出発しようと言ったが、美琴は時間がもったいないからと早く出発したがったため、サービスエリアで朝食を済ませた。
時間が早いこともあり、道路は思った以上に空いている。
助手席の美琴に目をやると、楽しそうにガイドブックを見ている。あれが届いたの、確か一昨日だったよな……。しかし本はかなり読み込まれ、クタクタになっている。
美琴がこんなに興奮してるのって、ダイニングテーブルが届いた日以来じゃないか? 尋人ふ美琴が喜んでくれていることが嬉しかった。
珍しく尚政に感謝だな。
「予定より早めに到着しそうだけど、行きたい所はある?」
美琴の顔がパッと明るくなる。
「この次のインターを降りると滝があるんだって! それを見てからこのお寺でしょ、でこの街を散策して、ご当地ソフトクリームをいただきたいです!」
すっげえ念入りに調べてるじゃん。鼻息の荒い美琴もかわいい。
今日は珍しく髪を上の方で一本に縛ってるため、首筋が露わになって尋人の気持ちをざわつかせる。
「次のインターね」
尋人は美琴が本で顔を隠しながらこちらを見ていることに気付く。
「どうかした?」
「うっ、なんでもない」
運転する尋人がカッコいいなんて恥ずかしくて言えない。最近は千葉さんが運転する車にしか乗っていなかったから、改めて尋人の横顔や、ギアを操作する手にときめいてしまった。
夜になったら、また私に触れてくれるのかな……私も早く尋人に触れたい……。
と思いつつ、今日は観光を楽しもうと意気込むのだった。
* * * *
学校の修学旅行や合宿を除けば、男の人と二人で旅行なんて初めての経験だった。
友達との旅行はケンカしないように気をつけようと心がけていた。でも尋人とは気を遣わずにいつも通り楽しむ事が出来ている。
やっぱり一緒に暮らしてるからかな。良いところもダメなところも全部見られてしまっているし、隠してもいずれバレる。ならばそれが今であっても変わらない気がしていた。
車を駐車場に停めて、滝までの山道を下る。
「これ、帰りは上りだね〜」
滝に到着すると、意外にも尋人の方が気持ち良さそうに目を閉じ、大きく息を吸い込む。
「なんか癒されるな……」
「そうだね……」
気持ちを共有できることが嬉しい。
案の定帰りは登りだったが、互いに励まし合いながら登り切る。
歩いて近くの寺にお参りしてから、ご当地のわさびのソフトクリームを食べる。
「意外とワサビが辛くないんだ! 美味しい〜」
「……俺は普通のソフトクリームで良かったかな」
「わかってないなぁ。ここでしか食べられないんだよ。やっぱり郷に行っては郷に従えでしょ」
「……別に地元の人がこれを食べてるわけじゃないだろ?」
「いいじゃない。思い出だし経験だよ。尋人と一緒に食べたね〜っていつか思い出すはずだから」
「うん……まぁそうだな」
美琴は尋人のソファクリームにのっていたワサビを自分のソフトクリームにのせる。
「はい、これで普通のソフトクリームになったよ。辛いの苦手だった?」
美琴って本当にすごい。俺が何言っても怒らないんだよなぁ。つい楽しくなってからかっても冷静に返すし。
まぁあの兄がいるくらいだからな、やはり自然と懐が深くなるのだろうか。
だからこそ美琴の前では変に意地も張らずにいられるんだ。
「私の行きたい所ばかりになってるけど、尋人はどこか行きたい所はないの?」
「……早く宿に行きたい」
「却下です。宿へは夕方到着、それまで遊びます」
「マジですか、美琴さん……」
「マジです。まぁ……夜は長いし……ね」
恥ずかしそうに上目遣いで尋人を見つめた。
「それってつまり、美琴も期待してくれてるってこと?」
「……そういうこと……かな?」
それなら夜に向けて美琴を満足させないとな。尋人は自然と笑顔になった。
「じゃあ日本一長い吊り橋は?」
「うん、いいね! 気になってた!」
初めての旅行だし、たくさん思い出を作ろう。これからずっと繋がっていく最初の一ページになるように。