忘却不能な恋煩い〜再会した彼は、恋焦がれた彼女を溺愛する〜
決戦前夜
旅行から帰ってきてから、二人の距離は更に縮まったように思えた。だからこそ尋人は、美琴のために終わらせようと決心をしたのだった。
尋人は小倉薬品にいる知り合いに山脇の一週間の予定を調べてもらい、飲み会や接待のない日に狙いをつける。
もし連絡をした後に美琴に何かあったらと考えると、前夜か当日の朝に約束を取り付けるのがいいのかもしれない。あの男も妻がいる前での連絡は避けるに違いない。
場所は藤盛さんのバーのVIPルームにしよう。何かあれば藤盛さんと尚政には助けてもらえるようにしておけば安心だろう。
それにしても……この山脇という男、相当なクズだろう。
尋人は机の引き出しを開き、探偵事務所に調査してもらった際の報告書を改めて読み返す。
美琴もなんでこんな男に引っかかったのか……。まぁ良くも悪くも素直で、擦れてない純粋な所もあって、騙されやすいんだよな。
初めて会った時のことをふと思い出す。本当、ホワイトレディのイメージのままだった。だからこそ、これからは俺が守っていくんだ。
* * * *
「明日の夜に山脇を呼び出そうと思う」
夕食の洗い物をしていた尋人に言われ、美琴は一瞬呼吸をするのを忘れた。この日を待っていたはずなのに、いざ言われると緊張してしまう。
「わ、わかった……」
「今夜メッセージを送ろう。明日の朝は一緒にいるから。仕事中はスマホはロッカーだろ? それならその後に何かメッセージが来ても、見ないで済むし」
濡れた皿を拭こうと手に取るが、動けなくなる。
「大丈夫。美琴を一人にはしないよ。俺も一緒に行くから」
「ほ、本当?」
「美琴がそれを望むのならね」
「……尋人って本当に私を甘やかすよね」
「そうしたいんだから仕方ない」
「私、どんどんダメになってく気がする……」
「違うよ。俺がいるんだから一人で頑張らなくていいんだ。二人でいるんだから支え合うのは当然だろ。それに一人で別れ話をしなきゃいけないなんて決まりはないし。どうする?」
「尋人にそばにいてほしい……」
「了解」
なんて心強い。彼がそこにいてくれると思うだけで、勇気もパワーもいつも以上に湧いてくるの。
尋人は洗い物を終えると、美琴の手に握られたままの皿をカゴに戻す。
「明日でいいよ。どうせ乾くし」
「うん……ありがとう」
そうは言ったものの、気が気ではなかった。あの男は平日の夜に電話やメッセージが来ることを快く思わないはず。山脇の不愉快そうな表情が目に浮かぶ。そのため、上手くいくのか美琴にはわからなかった。
でも尋人は証拠を集めていると言っていたし、きっと何か手立てがあるに違いない。メッセージに関しても、考えがあってのことなのだろう。今は信じて従おう。
「美琴、スマホ持ってきて」
そう言いながら、尋人はソファに腰掛けた。美琴もカウンターに置いてあったスマホを握りしめて、尋人の隣に座った。
あの日以来、このスマホで山脇の名前を見ることはなくなった。尋人が着信拒否の設定にしてくれただからだろう。
重たい気分のまま、山脇とのメッセージのやりとりのページが開かれる。
最後のメッセージは、尋人との再会の前日だった。
君を愛してるだの、僕には君しかいないだの、今見ると虫唾が走る。なぜこんな文章を信じたんだろう……きっとまだ少し山脇さんに気持ちが残っていたのかな。
「なんて送ったらいいのかな……」
「会ってお話ししたいことがあります。明日の夜にお会い出来ないでしょうか? とか。あまり期待させず、他人行儀な感じで」
美琴は尋人に言われた通りにメッセージを打つ。最後の送信ボタンが押せずにいると、尋人が横から手を伸ばして簡単に押してしまった。
「尋人のその思いきりの良さには脱帽だわ……」
するとすぐに既読になり、返事が届く。
『もちろん大丈夫。君に会いたかった。場所はどこがいいかな。きちんと話したいし、落ち着ける場所がいいね。ホテルのラウンジはどうか?』
いまだにホテルという言葉を出してくることに嫌悪感すら覚える。
尋人はそのメッセージを読んで、イライラしたように舌打ちをする。
「オードリーの店の場所を送れ。ここなら個室があるからって」
尋人に言われた通りにすると、山脇からOKのスタンプが送られてきた。
これでとりあえず一仕事終了だろうか。美琴はホッと胸を撫で下ろす。
「お疲れ様。この後も何もなければいいんだけどな……」
尋人は美琴の様子を気遣い、手を握る。
「大丈夫か?」
美琴は頷くと、尋人の腕に抱きついた。
「一緒にお風呂に入らない? その後いっぱいイチャイチャして、明日に向けてパワーチャージさせてほしい……」
「……逆に体力使わない?」
「そっちのパワーじゃなくて、気持ちの方です!」
「わかってるって。冗談だよ。美琴の頼みなら、いっぱい甘やかしてあげるよ」
尋人は美琴を抱き抱え、浴室に向かう。
唇を塞がれ、服を全て脱がされる。
今ならわかる。三年前のあの日に尋人に愛されてからずっと、私は尋人を求めていたこと。
尋人に愛されることは叶わないならと、タイミング良く告白してきた山脇さんに身を委ねてしまった。好きなの尋人なのに、その身代わりにしたんだ。
こんな事態になってしまったのは、そんな都合の良いことをした自分への罰なのだろうか。
でも尋人は再び私の前に現れた。心から愛すること、愛されることを私に教えてくれたの。
この先、尋人以上の男性に出会える自信なんてない。こんなにあなたに溺れる日が来るなんて、三年前には思いもしなかった。
「尋人、大好きだよ……」
「俺も好きだよ……」
たった一言で満たされる。もうあなたしかいらない、そう思った。
尋人は小倉薬品にいる知り合いに山脇の一週間の予定を調べてもらい、飲み会や接待のない日に狙いをつける。
もし連絡をした後に美琴に何かあったらと考えると、前夜か当日の朝に約束を取り付けるのがいいのかもしれない。あの男も妻がいる前での連絡は避けるに違いない。
場所は藤盛さんのバーのVIPルームにしよう。何かあれば藤盛さんと尚政には助けてもらえるようにしておけば安心だろう。
それにしても……この山脇という男、相当なクズだろう。
尋人は机の引き出しを開き、探偵事務所に調査してもらった際の報告書を改めて読み返す。
美琴もなんでこんな男に引っかかったのか……。まぁ良くも悪くも素直で、擦れてない純粋な所もあって、騙されやすいんだよな。
初めて会った時のことをふと思い出す。本当、ホワイトレディのイメージのままだった。だからこそ、これからは俺が守っていくんだ。
* * * *
「明日の夜に山脇を呼び出そうと思う」
夕食の洗い物をしていた尋人に言われ、美琴は一瞬呼吸をするのを忘れた。この日を待っていたはずなのに、いざ言われると緊張してしまう。
「わ、わかった……」
「今夜メッセージを送ろう。明日の朝は一緒にいるから。仕事中はスマホはロッカーだろ? それならその後に何かメッセージが来ても、見ないで済むし」
濡れた皿を拭こうと手に取るが、動けなくなる。
「大丈夫。美琴を一人にはしないよ。俺も一緒に行くから」
「ほ、本当?」
「美琴がそれを望むのならね」
「……尋人って本当に私を甘やかすよね」
「そうしたいんだから仕方ない」
「私、どんどんダメになってく気がする……」
「違うよ。俺がいるんだから一人で頑張らなくていいんだ。二人でいるんだから支え合うのは当然だろ。それに一人で別れ話をしなきゃいけないなんて決まりはないし。どうする?」
「尋人にそばにいてほしい……」
「了解」
なんて心強い。彼がそこにいてくれると思うだけで、勇気もパワーもいつも以上に湧いてくるの。
尋人は洗い物を終えると、美琴の手に握られたままの皿をカゴに戻す。
「明日でいいよ。どうせ乾くし」
「うん……ありがとう」
そうは言ったものの、気が気ではなかった。あの男は平日の夜に電話やメッセージが来ることを快く思わないはず。山脇の不愉快そうな表情が目に浮かぶ。そのため、上手くいくのか美琴にはわからなかった。
でも尋人は証拠を集めていると言っていたし、きっと何か手立てがあるに違いない。メッセージに関しても、考えがあってのことなのだろう。今は信じて従おう。
「美琴、スマホ持ってきて」
そう言いながら、尋人はソファに腰掛けた。美琴もカウンターに置いてあったスマホを握りしめて、尋人の隣に座った。
あの日以来、このスマホで山脇の名前を見ることはなくなった。尋人が着信拒否の設定にしてくれただからだろう。
重たい気分のまま、山脇とのメッセージのやりとりのページが開かれる。
最後のメッセージは、尋人との再会の前日だった。
君を愛してるだの、僕には君しかいないだの、今見ると虫唾が走る。なぜこんな文章を信じたんだろう……きっとまだ少し山脇さんに気持ちが残っていたのかな。
「なんて送ったらいいのかな……」
「会ってお話ししたいことがあります。明日の夜にお会い出来ないでしょうか? とか。あまり期待させず、他人行儀な感じで」
美琴は尋人に言われた通りにメッセージを打つ。最後の送信ボタンが押せずにいると、尋人が横から手を伸ばして簡単に押してしまった。
「尋人のその思いきりの良さには脱帽だわ……」
するとすぐに既読になり、返事が届く。
『もちろん大丈夫。君に会いたかった。場所はどこがいいかな。きちんと話したいし、落ち着ける場所がいいね。ホテルのラウンジはどうか?』
いまだにホテルという言葉を出してくることに嫌悪感すら覚える。
尋人はそのメッセージを読んで、イライラしたように舌打ちをする。
「オードリーの店の場所を送れ。ここなら個室があるからって」
尋人に言われた通りにすると、山脇からOKのスタンプが送られてきた。
これでとりあえず一仕事終了だろうか。美琴はホッと胸を撫で下ろす。
「お疲れ様。この後も何もなければいいんだけどな……」
尋人は美琴の様子を気遣い、手を握る。
「大丈夫か?」
美琴は頷くと、尋人の腕に抱きついた。
「一緒にお風呂に入らない? その後いっぱいイチャイチャして、明日に向けてパワーチャージさせてほしい……」
「……逆に体力使わない?」
「そっちのパワーじゃなくて、気持ちの方です!」
「わかってるって。冗談だよ。美琴の頼みなら、いっぱい甘やかしてあげるよ」
尋人は美琴を抱き抱え、浴室に向かう。
唇を塞がれ、服を全て脱がされる。
今ならわかる。三年前のあの日に尋人に愛されてからずっと、私は尋人を求めていたこと。
尋人に愛されることは叶わないならと、タイミング良く告白してきた山脇さんに身を委ねてしまった。好きなの尋人なのに、その身代わりにしたんだ。
こんな事態になってしまったのは、そんな都合の良いことをした自分への罰なのだろうか。
でも尋人は再び私の前に現れた。心から愛すること、愛されることを私に教えてくれたの。
この先、尋人以上の男性に出会える自信なんてない。こんなにあなたに溺れる日が来るなんて、三年前には思いもしなかった。
「尋人、大好きだよ……」
「俺も好きだよ……」
たった一言で満たされる。もうあなたしかいらない、そう思った。