忘却不能な恋煩い〜再会した彼は、恋焦がれた彼女を溺愛する〜
求めてしまうのは
 美琴はネイビーの扉の前で立ち尽くしていた。水色のシャツに合わせた白のスカートが風に揺れる。だが緊張からか、それとも六月という気候のせいか、シャツが汗で肌に張り付くような感覚を覚える。

 あの日以来、この店に来ることはなかった。

 たった一夜の出来事。でも私にとっては初めての大きな体験。もし彼に会ってしまったらきっと気持ちが揺らいでしまう。それが怖くてつい避けてしまっていた。

 あれから三年。それでも今日ここに来たのは、何かしら答えが見つけられるような気がしたからだった。

 美琴は意を決して扉を押した。あの日と同じ煉瓦の壁が薄暗い照明の中に映える。

 まだ早い時間ということもあり、人の姿はなかった。美琴は店内を見回す。目に止まったのは尋人と二人で座った奥のカウンターだった。あの時のキスの感触を思い出して複雑な気持ちになる。

 銀髪のバーテンダーの男性と目が合い、カウンター席へと案内された。

 紗世との待ち合わせの時間まではまだ少しある。先に飲んで待っていよう。

「あの……ホワイトレディをください」

 あぁ……だから嫌だった。私こんなにもあの夜を引きずってる。

 美琴は差し出されたホワイトレディをじっと見つめる。

『純粋そう』

 尋人の言葉を思い出し肩を落とした。
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