彼と私のお伽噺
「私、死ぬんですか?」
流れるような黒髪、少しつりあがった眉、真っ直ぐに私を見下ろすアーモンドアイ。
美しく整った顔立ちをした漆黒の男にそう訊ねたら、彼が呆れたように眉根を寄せた。
「何言ってる。たった一年で、俺の顔を忘れたか?」
「え?」
男の不機嫌そうな声と偉そうな話し方には、覚えがある。
「もしかして、コウちゃん……?」
「もしかしなくても、そうだ。入るぞ」
偉そうにそう答えて、男が遠慮なく人の家に押し入ってくる。
祖母は元気だった頃、TKMグループの社長宅で家政婦の仕事をしていた。
一瞬、死神かと思った顔のいい漆黒の男は、TKMグループの御曹司、鷹見 昴生だったのだ。
私より六歳年上の彼は、大学を卒業するまで祖母が家政婦を務めていた鷹見家の邸宅に住んでいた。
小学校に上がる前に病気で母を亡くした私は、それからずっと祖母に育てられていて。子どもの頃は、学校帰りに祖母の務め先である鷹見家の邸宅によく入り浸っていた。
そんな私になにかと構ってくれていたのが、鷹見家の子どもたちの中で一番年が近かった(それでも六歳は離れているんだけど)昴生さんだ。