彼と私のお伽噺

「着とけ」

「はい」

 昴生さんに言われるままに、ジャケットの袖に手を通す。

 そうしている間に、今度は彼が分厚めの大きなストールを持ってくる。それを私の肩からかけてぐるぐる巻きにすると、「よし」と小さくつぶやいた。

 何をもって「よし」なのかはわからないけど……。

 私の身体が冷えないようにするための配慮なんだろう。


「ありがとうございます」

 向かい合わせに立っている昴生さんに笑いかけたら、彼が垂れているストールの端と端をつかんで引っ張った。


「終わったら帰るぞ。疲れた」

「はい。でも、楽しかったです。ありがとうございます」

「よかったな」

 口元を緩めながら頷くと、すっかり疲弊した様子の昴生さんが少しだけ眉根を寄せる。

 昴生さんと向かい合って話していると、急にすぐそばでカシャッとシャッター音が響いた。

 驚いて昴生さんと一緒に振り向くと、アキコさんがすぐそばでカメラを構えてニヤリとする。


「あ、すみません。撮影はもう終わったんですけど、お二人とも自然でとってもいい表情してたので。仲良しでいいですね」

 アキコさんに言われて、カーッと頬が火照った。

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