彼と私のお伽噺
「別に、そんなことは……」
慌てて否定すると、昴生さんの目が無言で私に圧をかけてきた。
「パパとママが仲良しなのは、いいことですよ。赤ちゃん、楽しみですね。次回は赤ちゃんのニューボーンフォトと、ご家族三人での写真を撮らせてください」
「はい、そのときはよろしくお願いします」
アキコさんに満面の笑みでそう言われて、私は少し照れながらお腹にそっと手をあてた。
ニューヨークに移動してきて生活にも慣れてきた頃、妊娠がわかった。
初めての海外生活に加えて、初めての妊娠。
海外で出産するなんて大丈夫だろうかと不安だったけど、昴生さんが日本語が通じる病院や費用や保険のことなど。アメリカでの出産情報について私以上にいろいろと調べてくれて。
「咲凛の母親も、お前のことを海外で妊娠してるよな。お前、アメリカ生まれだろ」
昴生さんにそんなふうに言われて、不安は一気になくなった。
幼い頃に亡くなってしまった母との思い出は少ないけれど、結婚して母が写真を撮ったのと同じ場所でウエディングフォトを撮って、母と同じようにニューヨークで出産を経験する。
過ごした時間は短くても親子の縁みたいなものってあるのかな、と不思議な気持ちになってしまう。