彼と私のお伽噺

「じゃぁ、早くサインしろよ」

「だから、私にだって考える時間が────……」

 続けて文句を言おうとすると、顔を近付けてきた昴生さんにさっきよりも強い力で唇を塞がれた。

 その触れ方と熱さで、言葉で言われなくても昴生さんの気持ちなんてわかってしまう。

 昴生さんは自分勝手で意地悪で横暴だけど、遊びで女の子と付き合ったりキスしたりしない。

 子どものときからずっと見てきたから。この五年間、近くにいたから。

 私はちゃんと、そのことを知ってる。

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