彼と私のお伽噺
「で、弁解は?」
人の話も聞かずにめちゃくちゃにキスしてきたくせに、低い声で弁解の言葉を求めてくる昴生さんに少しムッとする。
「話そうとしたのに、遮ったのは昴生さんでしょう?」
「咲凜が戸崎とふたりでいたと思うと、冷静でいられなかった」
眉間を寄せて怒った表情で昴生さんを見上げたのに、彼が目を伏せて嫉妬めいたことを言うから不覚にも胸がときめいた。
「ふ、ふたりなんかじゃないですよ。戸崎部長の言ってたとおり、ランチのときは山里さんっていう先輩もいたんです」
「でも、俺が見たときはお前らふたりだったよな」
「山里さんが買い物に寄るって言うから、途中で別れたんですよ」
「ふーん」
嘘なんてついていないのに、昴生さんが疑わしげな目で私のことを見てくる。
「そんなにランチデートがしたいなら、これからは俺のこと呼べ」
「え?」
昴生さんがボソリと漏らした言葉に反応すると、彼が私から視線をはずして舌打ちをした。
「咲凛。お前早く決断しろ。俺のこと、どんだけ待たせるつもりだよ」
普段は勝ち気につりあがっている昴生さんの眉尻が、珍しく少し下がっている。