彼と私のお伽噺

 あんなにエラそうに強引に婚姻届を突き出してきたくせに。私に返事をもらえるかどうか不安なの……? 
 そう思ったら、いくつも年上で、これまでずっと従うばかりだった昴生さんのことが可愛く見えてしまう。


「期限を提示されてから、まだ一週間も過ぎてませんよ?」

「知ってる。お前に一ヶ月も猶予を与えたのが間違いだった。期限は今に変更する」

「え、また自分勝手に……」

「お前が決断を渋ってる理由はなんだ? 俺の嫁になるにあたって不満があるなら言え」

「不満なんてないですけど……」

 昴生さんが私の腰に手を回して引き寄せる。


「だったら、今すぐ決断しろ」

 耳元に低い声でささやかれて、ビクッと肩が震えた。


「でも、ここ、職場ですよ」

「俺以外、誰も見てないし、聞いてない」

 昴生さんがそう言って、コツンと額をぶつけてくる。

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