彼と私のお伽噺

 下を向いて膨れていると、左側の顔に昴生さんの視線を感じる。わかっていて無視していたら、急にむぎゅっと頬をつままれた。


「化粧してたってしてなくったって、あんま変わり映えしねぇけどな」

「どういう意味ですか……?」

 横目にジッと昴生さんを見上げると、彼が無表情で「別に」と、私の頬から指を離した。


「昼間返事もらってからずっと、一秒でも早く正式に俺のものにしたかったから。化粧とかそこまで気が回んなかったんだよ」

「へ?」

 昴生さんがボソボソ言いながら顔をそらす。

 てっきり、いつもの横暴に振り回されたのだと思っていたのに……。ギリギリ聞き取れるくらいの声量で聞こえてきた言葉に、時間差で顔が熱くなった。


「家に帰ったら渡そうと思ってたけど、とりあえずこれで機嫌なおせ」

 トレンチコートの前を開いて、スーツのポケットに手をつっこんだ昴生さんが、私の手を取ってそこに何かを握らせる。


「昴生さん、これ……」

 開いた手の中にあったのは、一粒ダイヤのネックレス。数秒それを見つめてから顔をあげると、昴生さんが斜め上から少し偉そうに私を見下ろしてきた。

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