彼と私のお伽噺
触れただけで唇が離れたあとも、昴生さんの黒褐色の瞳が暗がりの中で私のことを射抜くように見つめていて。ドキドキと心音が速くなる。
婚姻届を突きつけられる前も、昴生さんが私の手をつかんだり、軽くハグみたいなことをしてくることはあった。
だけど、キスされたり、官能的に触れられたり、今みたいに扇情的な眼差しを向けられたことはない。
婚姻届を突きつけられてからの昴生さんが私を見る目は、オレ様王子が下僕を見ているそれとは全く違う。昴生さんが私に向ける眼差しは、何か大切で愛しいものを見つめるときのそれだった。
プロポーズは強引だし、婚姻届の提出のときに着ていたのは部屋着のスウェットだけど……。私、ほんとうに昴生さんの奥さんになったんだ。
改めて自覚すると、嬉しさが込み上げてきて。目の前の昴生さんの手を繋いでぎゅっと握りしめる。
「あの、……。好き、です」
「なんだ、急に」
ドキドキしながら伝えると、昴生さんがほんの少し片眉を下げて不思議そうな顔をした。
もっと機嫌の良さそうな反応が返ってくるかと思ったのに。意外そうな顔をされて、言うタイミングを間違えただろうかと恥ずかしくなる。