彼と私のお伽噺
「いえ、あの。そういえばちゃんと言ってなかったなーと思ったので伝えておこうかと……」
握った昴生さんの手の甲を指で忙しなく撫でながらもごもご言っていると、空いていたほうの彼の手が私の肩を抱いて引き寄せた。
「今さらだな。そんなの、聞かなくても知ってるけど」
「え? なんで……」
子どもの頃パシリ扱いされてたときも、一緒に暮らしてた五年間も、昴生さんのことを好きな気持ちは隠してきたつもりだったのに。
パッと顔をあげた私の前髪を掬いあげるように撫でた昴生さんが、無防備になった額に唇を押し付けてくる。
「だってお前、昔から俺と一緒にいたくて、いやいや命令聞かされてるフリしてただろ」
「そんなこと……!」
「バレてるけど」
昴生さんがふっと笑って、私の頭をぐしゃりと撫でる。
「寒ぃから、早く帰るぞ」
トレンチコートのポケットに手を突っ込んだ昴生さんが、私を置いて歩き始める。