彼と私のお伽噺
「待ってください」
大股で進んでいく昴生さんの背中を追いかけてコートの裾をつかまえると、彼が立ち止まって肩越しに振り返った。
「そういえば、昴生さんはどうなんですか?」
「ん?」
いぶかしげに首を傾げる昴生さんのコートの裾をぎゅっと握る。
「昴生さんは、私のこと好きですか? 前に婚姻届にサインしたらちゃんと言ってくれるって約束しましたよね」
「そうだっけ?」
「そうですよ! 言ったことには責任持ってください。それに、私はちゃんと言ったのにそっちは何も言わないとかずるいです」
「ずるい、ってなんだよ。ちゃんとプロポーズしただろ」
「そう、ですけど……。ちゃんと好きかどうかは聞いてません。私だって、もう言われなくたってわかってるけど、それでも昴生さんの口からちゃんと聞きたいです」
唇を真横に引き結んで真剣な顔で昴生さんを見上げると、彼がポケットから出した右手で私の頬に触れた。