彼と私のお伽噺

 祖母が鷹見の家で家政婦をしていたから、昴生さんのご両親とは小学生の頃から面識がある。

 昴生さんのご両親は、長年鷹見家に勤めた祖母にとてもよくしてくれていて。昴生さんと私の結婚も、喜んで受け入れてくれた。

 TKMグループの社長と社長夫人だと聞くと少し萎縮してしまうところもあるけれど、小学生の頃から鷹見家に出入りしていた私に、ふたりはとても優しくて。

 お義母さんには『ニューヨークに異動する昴生に、咲凛ちゃんがついていてくれればすごく安心。ありがとう』と、感謝までされた。

 子どもの頃から私のことを知っているご両親は、私がクラッシックコンサートなんて行き慣れていないことももちろんわかっているはずだ。


「咲凛がクラッシックのコンサートに興味がなさそうなことくらい、親父たちもわかってるよ。ほかに代役がいなかったんだろ、きっと。兄貴たち両方ともダメだったから、俺に回してきたって口ぶりだった」

「そうですか」

「わからなくていいから、俺の隣で静かに座ってろ。そしたら、コンサートのあとになんでも好きなもの食わせてやる」

「ほんとですか? じゃぁ、ハンバーグがいいです」

「食べ物につられるとか、色気ねぇな」

 食べ物につられてキラッと目を輝かせると、昴生さんに笑われた。

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