彼と私のお伽噺

「別に、食べ物だけにつられたわけじゃないです。コンサートだって、ちゃんと楽しみですし……」

「どうだかな。コンサートは18時からだから。16時には家出る。ちゃんと、デートに見合う格好しろよ」

「え、デート……」

 そうか。夕方からのお出かけはデートなんだ。

 ふたりだけで改まってお出かけなんて、結婚してから初めてだ。そう思うと、なんだかすごく緊張してきた。

 デートに見合う服なんて持ってたっけ……。

 残念なことに、私は昴生さんと暮らし始める前も後も、まともに男の人とデートした経験がない。

 それは、私がずっと昴生さんのことを好きだったせいもあるし。学生時代は、昴生さんが私の交友関係にめちゃくちゃ目を光らせていたせいもあると思う。

 お昼ご飯の洗い物を済ませた私は、夕方のデートの準備のために急いで自室に飛び込んだ。

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