彼と私のお伽噺
プログラムの一曲目はブラームスのヴァイオリン協奏曲。作曲家名はなんとなく聞いたことがあるような気がする。でも、曲自体はあまりよく知らなかった。
一曲目はとても長くて、なかなか演奏が終わらない。
十五分を過ぎても一曲目が終わらないので、不思議に思って昴生さんの腕をそっと突いたら、彼がふっと笑った。
「こういうコンサートは第一楽章から全部演奏するから一曲が長いんだよ。一曲演奏するのに三〜四十分はかかる」
「え、そうなんですか……」
コンサートは二時間もあるのにプログラムがたったの二曲なんて、おかしいと思った……! そういうものなんだ……。
小声で教えてくれたあと、ステージのほうを向いて真顔になった昴生さんは、音楽がわかっているのかどうなのかわからないけど、静かに演奏に聴き入っている。
昴生さんを見習ってステージ上のオーケストラに視線を戻した私も、演奏を聴きながら、指揮者の棒の動きやヴァイオリン、ヴィオラなどの弦楽器。クラリネットやフルートなどの管楽器の奏者の動きをゆっくりと見回しながら、時間を過ごした。
休憩を挟んで挟んだ二曲目は、作曲家名すらわからない曲で。穏やかな優しい曲調に、うつらうつらと瞼が落ちそうになる。
寝ちゃダメ、寝ちゃダメ……。
そう思って、膝の上で手の甲をつねったり、必要以上に瞬きをしてみたりしたけど……。
「おい、起きろ」
呆れ顔の昴生さんに頬をつねられてハッとしたときには、コンサートが終わって、観客たちも席を立ち始めていた。