彼と私のお伽噺

「あれ、私……」

「二曲目の序盤くらいから、俺の肩に頭のっけてスヤスヤ寝てたな」

「え、ごめんなさい!」

「いいけど。ヨダレふけ」

「へ?」

「ん」

 手の甲で口元を拭おうとする私に、昴生さんがハンカチを差し出してくる。

 ありがたく受け取って口の端を拭っていると、昴生さんがニヤッと笑った。

「子どもみたいだな」

「……」

 あんなに寝ちゃダメだと思って頑張ったのに。襲ってきた睡魔に勝てなかった自分に、反省しかない。

 いちおう、昴生さんと初めてのデートだったのに。恥ずかしいところを見られてしまった。

 ヨダレを拭いたハンカチをそのまま返すのもなんなので、無言で自分のバッグにそれをしまう。


「じゃぁ、行くか」

 私がヨダレを拭いてハンカチをしまうまでの一連の流れを確認してから、昴生さんが座席から立ち上がる。

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