彼と私のお伽噺

「ハンバーグですか?」

 時刻は夜八時。お昼から何も食べていないから、お腹もペコペコだ。

 だけど、期待たっぷりな目で見上げた私を、昴生さんがアホかという目で見下ろしてきた。


「お前は食い気しかないのか」

「だって……」

 コンサートが終わったら好きなもの食べさせてくれるっていう約束だったし。


「ハンバーグの前に、楽屋に挨拶な。親父に、知り合いの娘に挨拶してきてくれって頼まれてる」

「あぁ、そうでした……」

 コンサート会場の受付でも、昴生さんはお義父さんに渡すように頼まれたという花束を預けていた。

 それだけでなく、コンサートが終わったら挨拶してくるように、と関係者用のパスも持っているらしい。


「お知り合いの娘さんは、何の楽器を演奏されてたんですか?」

「ヴァイオリン」

「そうだったんですね」

 座席に座ったまま昴生さんを見上げるようにして話していると、彼が私に右手を差し伸べてくる。

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