彼と私のお伽噺
私の存在を忘れて美女とのおしゃべりを楽しんでいる昴生さんの横顔をジトッと見ていると、それに気付いた美女が初めて私のほうに視線を向けた。
「ごめんなさい。今日はお連れの方がいたのね。え、っと……」
「ご挨拶遅れましたが、実は先日、彼女と入籍したところで。妻の咲凛です」
忘れられているのかと思ったけど、昴生さんが私の肩を引き寄せて美女に「妻だ」と紹介してくれたから、ほっとした。
「そうだったのね。可愛いらしい方だから、一瞬、妹さん……? と思ったけど、私の記憶の限りでは、おじ様のところは三人兄弟だし。目と髪の色も綺麗だから、妹さんなわけないわよね」
美女が口元に手をあてて、ふふっと綺麗に笑う。
「はじめまして。咲凛さん。上尾 妃香です。鷹見のおじ様とは父が親しくしていて、昴生くんたちとも昔はよく一緒に遊んだの。またお会いすることもあるかもしれないので、よろしくお願いします」
妃香さんが笑顔で自己紹介をして、私に握手を求めてくる。
そこまでの所作や話し方は、大人っぽくて品があって美しくて。彼女の手を遠慮がちに握り返しながら、コンサート会場でヨダレを垂らして寝てしまった自分が子どもっぽすぎて恥ずかしかった。