彼と私のお伽噺



 食後のコーヒーを飲んでからレストランを出た私たちが家に着いたのは、夜十一時を過ぎた頃だった。


「遅くなったし、今日はシャワーでいいか」

 先に靴を脱いで玄関に上がった昴生さんが、腕を上げて伸びをする。

 背の高い彼の背中を見つめながら三和土に突っ立っていると、それに気付いた昴生さんが振り向いた。


「どうした? やっぱり腹でも痛いのか?」

 家に着いてもまだ腹痛を疑ってくる昴生さんにムッとする。


「違いますよ」

「じゃぁ、なんだよ」

「私、子どもっぽいですか?」

 ワンピースのスカートをつかんで俯きがちに訊ねたら、私のことを面倒くさそうに見ていた昴生さんが「は?」と、小さく首を傾げた。


「なんだ、急に」

「いえ、その……。今日はせっかくコンサートに連れて行ってもらったのに、演奏の途中で寝ちゃったし(ヨダレまで垂らしてたし)コンサートデートなのに、夜ご飯のハンバーグのことばっかり考えてたし。妃香さんには最初、妹かと思われてたし……」

 ボソボソといくつか理由をあげていくと、昴生さんがクッと笑った。

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