彼と私のお伽噺
◇
食後のコーヒーを飲んでからレストランを出た私たちが家に着いたのは、夜十一時を過ぎた頃だった。
「遅くなったし、今日はシャワーでいいか」
先に靴を脱いで玄関に上がった昴生さんが、腕を上げて伸びをする。
背の高い彼の背中を見つめながら三和土に突っ立っていると、それに気付いた昴生さんが振り向いた。
「どうした? やっぱり腹でも痛いのか?」
家に着いてもまだ腹痛を疑ってくる昴生さんにムッとする。
「違いますよ」
「じゃぁ、なんだよ」
「私、子どもっぽいですか?」
ワンピースのスカートをつかんで俯きがちに訊ねたら、私のことを面倒くさそうに見ていた昴生さんが「は?」と、小さく首を傾げた。
「なんだ、急に」
「いえ、その……。今日はせっかくコンサートに連れて行ってもらったのに、演奏の途中で寝ちゃったし(ヨダレまで垂らしてたし)コンサートデートなのに、夜ご飯のハンバーグのことばっかり考えてたし。妃香さんには最初、妹かと思われてたし……」
ボソボソといくつか理由をあげていくと、昴生さんがクッと笑った。