彼と私のお伽噺
「あぁ。もしかしてお前、妃香さんに言われたこと気にしてデザート我慢したのか?」
「……」
「ミルクと砂糖入れまくらないと飲めないコーヒー頼むって言い張ったのもそれでだな」
「……」
「ばっかじゃねぇの」
無言でうつむく私に向かって、昴生さんが意地悪くそんなことを言ってくる。
「だって……!」
この五年間、昴生さんに女の人の影がないと思って安心してたけど、知り合いに大人で綺麗な妃香さんみたいな人がいるんだってわかって急に不安になった。
私は昴生さんよりも六歳も年下だし。元々はただのパシリだったし。生活費と教育費の面倒を見てもらう代わりに「奉仕」するって約束させられて同居してただけだし。
昴生さんの隣は本当は、妃香さんみたいな大人の女の人が似合ってたんじゃないか、って。
唇を噛んで顔をあげると、昴生さんが私を呆れ顔で見下ろして額をパシッと叩いてきた。
「お前、ほんとにアホだな。馬鹿面でヨダレ垂らして寝てても、食い気が強くても、俺にはもうずいぶん前から女にしか見えねーよ」
私の額に手をあてた昴生さんが真顔でそんなことを言ってくるから、胸がざわざわした。