彼と私のお伽噺
「酔ってます?」
「全然。素面だけど」
「嘘……」
昴生さん、レストランでグラスワインを二杯飲んでた。
「確かめてみるか?」
「確かめる、って?」
疑いの眼差しを向ける私を見下ろす昴生さんの黒褐色の瞳が、妖しく揺れる。
「俺がどれくらい本気で言ってるか」
ニヤリと口元に笑みを浮かべた昴生さんが、私をひょいと抱き上げる。
「え、なに……」
昴生さんはジタバタする私の足からパンプスを片方ずつ抜き取って放り投げると、私を抱きかかえたまま彼の部屋へと向かった。
五年前からマンションの二LDKで同居していた私たちには、それぞれに部屋があり、結婚してからもなんとなく眠るときは別々だった。
掃除以外ではほとんど入ることのない昴生さんの部屋。そこに抱きかかえて連れ込まれた私の身体が、背中からベッドに落ちる。
「昴生さん……?」
仰向けに転がった私の上から昴生さんが覆い重なってきて、私の手首を緩くつかんでシーツに縫い留める。
顔を近付けてきた昴生さんに噛みつくようなキスをされて、ようやく彼が言っていた「本気」の意味をきちんと理解した。