彼と私のお伽噺
御曹司様の疑惑
入籍して一ヶ月が過ぎた頃、昴生さんのニューヨーク支店への異動の話が具体的になってきた。
渡米するのは半年ほど先なのだが、パスポートの名義変更だったり、ビザの申請だったり、引っ越しに向けて荷物の仕分けだったり。ちょっとずつやらなければいけないことがある。
昴生さんも、日本とニューヨーク支店と、両方の引き継ぎ業務を少しずつ始めているようで忙しそうだ。
夕飯を食べ終えたあと、ソファーに座った昴生さんにコーヒーを出す。
仕事のことで話したいこともあったから、私も砂糖入りのカフェオレを淹れて昴生さんの隣に座った。
「仕事のことなんですけど……」
「ん?」
「ダメ元で戸崎部長に相談してたんですけど、総務部からのニューヨーク支店への異動は今のところ難しいそうです。特に私は新人だし、英語ができるわけでもないし」
昴生さんの異動に合わせて、私もあわよくばニューヨーク支店に異動できないかなと思ったけれど……。
事務員の枠は、現地採用のバイリンガルスタッフで賄えているようで。私が働ける枠はなかった。
「だろうな。見た目は英語できそうなのに、実際はからっきしだもんな」
「ですね。日本語環境で日本人として育ちましたから。とりあえず、あと半年は総務部での仕事を頑張ります」
「そうだな」
コーヒーカップをテーブルに置いた昴生さんが、笑いながら私の茶色の髪を指で掬って撫でる。
昴生さんと同じ会社で働きたくて頑張ってTKMグループに入ったけれど、結局、渡米前に退職することになりそうだ。