彼と私のお伽噺
「なぁ、日本を離れるまでにあと半年だが、結婚式は本当にやらなくていいのか?」
婚姻届を出した直後に昴生さんから結婚式の希望を聞かれたとき、私はそれを断った。
「前も言ったとおり、花嫁姿を見てもらいたいおばあちゃんもお母さんもいないですし。特に希望は……」
「ふーん」
昴生さんは私が婚姻届にサインしさえすれば式はどうだっていいみたいだったし、私もあまり結婚式に夢や願望はなかった。祖母や母が生きていれば、また違ったのかもしれないけど。
「あー、でも結婚式と言えば……」
祖母や母のことを考えていた私の脳裏に、ふとひとつ。ある記憶が蘇る。
「私が小学生のときのことなんですけど、祖母が両親のウエディングフォトを見せてくれたことがあるんです。事実婚だった両親も式はしなかったみたいなんですけど、プロに頼んで撮った写真を祖母宛に送ってきていて。それを大切に残してたみたいなんです」
純白のウエディングドレスを纏った20代の母と、私と同じ碧みがかったグレーの瞳の背の高い白人男性。ふたりは、ヨーロッパ風のテラスで向かい合い、幸せそうに微笑んでいた。
ふたりが立つテラスの向こうには白い長い階段が伸びていて。ふたりはまるで、お伽噺の王子様とお姫様みたいだった。
「小学生のときは写真の場所がどこかわからなかったんですけど、高校生くらいになってみた海外ドラマでその場所が映ってて。調べたら、ニューヨークのセントラルパークの中にある場所だったんですよね」
「セントラルパーク……、もしかしてここか? ベセスダテラス」
スマホで情報検索した昴生さんが、私に調べた場所の写真を見せてくれる。