彼と私のお伽噺
五年前に一緒に暮らすようになってから、昴生さんがお風呂も入らずにソファーで寝ちゃうところなんて見たことがない。
疲れているのかな、と心配だけど、仕事を代わることはできない。
引っ越しの準備のことやその他諸々、昴生さんとゆっくり話したいことだってたくさんあるのに、ふたりで会話する時間もあまりない。寂しいけど、今だけの我慢かな。
「おやすみなさい」
昴生さんの綺麗な寝顔を眺めながら小さくつぶやいたとき、リビングのローテーブルに置いてあった彼のスマホがブブッと鳴った。
何気なく視線を向けると、スマホのロック画面にメッセージの通知がきている。メッセージの送信者は妃香さん。
【今度会いましょう】
彼女からそんなメッセージが送られてきているのが見えて、一瞬で顔から血の気が引いた。
妃香さんは昴生さんと親しく連絡取り合う仲なの────?
今度会いましょう、ってどういうこと────?
考えているうちに、ロック画面が暗くなってメッセージの通知が見えなくなる。
もう一度ちゃんとメッセージを確認したいけど、勝手に昴生さんのスマホを見るのはよくない。でも、気になる……。
ローテーブルに置かれた昴生のスマホに手を伸ばすかどうか葛藤していると、ソファーで寝ていた彼がもぞもぞと動いた。