彼と私のお伽噺
「咲凛……?」
寝ぼけた声で私を呼んで、昴生さんがむくっと起き上がる。
「しまった、寝てた」
息を吐いて、手のひらで前髪をぐしゃっとする彼を振り返りながら、勝手にスマホを見なくてよかったと思った。
「寝るなら、ちゃんとベッドで寝たほうがいいですよ」
「そうする」
額を押さえてうつむいた昴生さんが、気怠げにつぶやく。
しばらくそうしてから、彼がおもむろにテーブルのスマホに手を伸ばした。
妃香さんからのメッセージを見てしまった私は、何気ない彼の行動にドキドキしてしまう。
妃香さんからのメッセージに、昴生さんはどんな反応を示すだろう。そして、どんな返事を返すのだろう。
ぼんやりとした表情でスマホの画面をゆっくりとタップする昴生さんのことを、息を止めてじっと見守る。
指の動き的に、昴生さんは妃香さんから届いたメッセージを開いているようだったけど……。彼の表情は特に変わらなかった。
メッセージを読んだあと、それに返信する素振りもない。
【会いましょう】と書いてあったように見えたけど、あのメッセージは私の見間違い……? それとも友人同士のただの社交辞令——?
昴生の些細な動きでも見逃すまいと見ていると、スマホから顔をあげた彼が不審そうに眉を顰めた。