彼と私のお伽噺
「何だ?」
「いえ、別に……」
「ふーん」
首を横に振る私を、昴生さんがジッと見てくる。
妃香さんからのメッセージのことを思いきって聞いてみようかとも思ったけど、なんとなく聞きづらい。
「俺の部屋で一緒に寝るか?」
昴生さんの視線から逃れるように下を向くと、横から顔を覗き込んできた彼がニヤリと口角を引き上げる。
「寝ません」
揶揄うように笑う昴生さんの胸を押し退けて拒否すると、彼が不機嫌な顔で立ち上がった。
「あ、っそ。じゃぁ、いい」
私にぷいっと背中を向けた昴生さんが、リビングを去って行こうとする。
部屋に向かって歩きながら、その手がスマホを弄っていて。それを見て、また急激に不安になった。
もしかして、部屋でひとりになったら妃香さんに返信するのかも……。そう思うといてもたってもいられなくて。
既に廊下に出て行ってしまった昴生さんを慌てて追いかける。
自室の部屋のドアのノブに手をかけた昴生さんの服の裾をつかまえて、そのまま背中からぎゅっと抱き着くと、彼が「おい……」と珍しく少しだけ動揺したような声をあげた。