彼と私のお伽噺
「どうした、急に」
昴生さんが振り向こうとするのを気配だけで感じながら、背の高い彼の背中に顔を押し付けて、腰に巻き付けた両腕にギューッと力を入れる。
妃香さんとのメッセージがただの友人同士の社交辞令だとしても、そうじゃなくても。昴生さんが私以外の女の人と連絡を取ったり会ったりするのは嫌だ。
昴生さんの奥さんにしてもらえて、海外赴任先にまで一緒に連れて行ってもらえる。
昴生さんの一番近くにいるのは私だとわかっているのに、自分が結構独占欲が強かったことに気付いてあきれる。
「やっぱり、一緒に寝る」
「なんだよ。急にひとりで寝るのが淋しくなったのか」
ククッと機嫌よさそうに笑う昴生さんの声を聞きながら、しがみついた彼の背中に無言で額を摺り寄せる。
「子どもみたいだな」
手に持っていたスマホをパンツのポケットに入れた昴生さんは、意地悪くそう言うと、私の手を引いて部屋に入った。
電気の消えた部屋。昴生さんが暗闇の中で私をベッドに押し倒して覆いかぶさってくる。
「眠かったんじゃないんですか……?」
首筋に顔を埋めて唇を這わせる昴生さんにため息交じりに訴えかけると、彼が私の部屋着の裾から手を入れながら、ふっと笑った。